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一人ぼっちの花は散り」(2008/04/02 (水) 02:51:26) の最新版変更点

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「これは遊び? それとも人生のすべて?  ひとかけらのパンかしら? それとも人類の歴史のすべて?」   ──森博嗣「有限と微小のパン」より ---- <2日目/細川可南子/???> ----  ここはどこだろう。気がつけば、こんな場所に。  聖さまの部屋?  それとも、まさか犯人の部屋?  手足がしびれている。縛られていたから、血が止まってしまったのか。  喋れない。口に、布が──。  ──ドアが、開いた。  ああ、あの人は、私を──。 ---- <2日目/福沢祐巳/広間> ----  雨が、降る。  ああ、とても嫌な雨。  いつかの、お姉さまとの出来事を思い出す。    窓の外を見ることを拒否した私達は、カーテンを完全に閉め切っていた。  頭上の部屋で起きた、連続事件。  たった一日で、江利子さまが、蓉子さまが、由乃さんが……。  聖さまと可南子ちゃんが、二人で聖さまの部屋に閉じこもった。  令さまは全てを呪い、由乃さんが眠る資料室に閉じこもった。  そして、瞳子ちゃんが姿を消した。  全てが嫌になっていた。  あの令さまの一件から、どれくらい経ったのだろう。  部屋の真ん中に椅子を動かして、私とお姉さまはそこに座っていた。志摩子さんと乃梨子ちゃんも同じように座っている。二人も疲れているようで、うつむいたままだ。  沈黙は続く。聞こえる音は、自分の呼吸音と、激しい雨の音。 「──祐巳」  お姉さまが口を開いた。 「は、はい」 「……瞳子ちゃんを、探してくるわ」  ゆっくりと腰を上げるお姉さまの腕を、私は慌ててつかんだ。 「駄目です、お姉さま!」  咄嗟に言ったが、何が駄目なのか自分でもわかっていない。  お姉さまを一人にするのが? それとも、自分がお姉さまと離れるのが? 志摩子さんたちを置いていくのが?  ──瞳子ちゃんが、もし犯人だとしたら? 「……祐巳さん、どうしたの?」 「祐巳さま……」  志摩子さんと乃梨子ちゃんがこちらを見ているのに気づく。お姉さまは、少し眉をひそめていた。 「あ、す、すみません……」  私は手を離すと、お姉さまが頭を撫でてくれた。 「大丈夫よ。瞳子ちゃんは、私の大事な……」  そこまで言うと、お姉さまは目を閉じた。 「そして、祐巳にも、乃梨子ちゃんにも、志摩子にも……大事な人なんですもの」 ---- <2日目/佐藤聖/???> ----  私は、必死に縛られた手足をもがかせていた。  早く、ここから逃げなければ。  早く、犯人をみんなに伝えなければ。  祐巳ちゃんを、志摩子を──可南子ちゃんを、守らなければ。  床の上を転がる。縄は緩む気配を見せない。  いや、少しだけれど緩みだした。いける、これなら……! ---- <2日目/支倉令/広間> ---- 「だから、犯人なはずはない、って言うの?」  私はドアを開け放つと同時に言った。祥子や志摩子が、ハッとした表情で私を見る。 「令……」  祥子はよほど驚いたらしい。他の三人も、私をじっと見ている。  それもそうか。私はまだ、右手に日本刀を持っているのだ。 「みんな、聞いて。……可南子ちゃんが、殺されたわ」 「そんな!」  勢いよく立ち上がったのは乃梨子ちゃん。志摩子は口を押さえている。  祐巳ちゃんも、そして祥子も、口をパクパクと動かしているだけ。 「……嘘だ! 可南子さんが!」  乃梨子ちゃんは私が日本刀を持っているのも忘れて、こちら目掛けて走ってくる。私は避けない。 「あんたが! あんたが殺したに決まってる!!」  私を思い切り突き飛ばすと、階段に向かって走っていった。  床に座り込んだ私。カラン、と音を立てて、刀が床に落ちる。 「……令、本当なの?」  祥子の声に、私は頷くことしかできなかった。 ---- <2日目/二条乃梨子/三階廊下> ----  嘘だ。嘘だ。可南子さんが殺されるなんて。  だって、聖さまと一緒に部屋に閉じこもったじゃないか。  聖さまはどうなったんだ。どうしてあの人だけ。  聖さまが犯人か。それとも、令さまがあの刀で斬りつけたか。  ──まさか、瞳子が?  そんなはずは無い。  でも、もう、ここにいるのは──。  三階に上がると、私はあのバリケードに飛びついた。しかし、聖さまの部屋のドアを塞いでいたバリケードは、どかされていた。ドアが開いている。人が一人、通れるくらいのスペースが出来ている。  令さまがどかしたに違いない。外からこれを動かせるのは、あの人しかいない。  私は、そのスペースに身体を入れ、部屋を覗いた。  聖さまはいなかった。可南子さんもいない。  まさか、と思う。  まさか、令さまは「可南子さんが殺された」と嘘をついたのではないだろうか。  そうすれば、きっと私か祐巳さまが動くと思ったのだ。そうすれば、残るのは祥子さまと……。 「志摩子さん!!」  志摩子さんが危ない。あの刀で、令さまは──!!  私がそう叫んだ瞬間、嫌な臭いが鼻に届いた。  もう、嫌だ。この、血の臭いを嗅ぐのは!  しかし、私は部屋に足を踏み入れていた。  クロゼットが開いているのが見えた。そして、そこから、すらりとした足が見えている。  可南子さんは、そこにいた。  不自然なポーズだ、と一瞬思ったが、それは、首が胴体と離れているせいだ、と気づいた。 「う、うわあああああああああああああああああああ!!!!!」  私は叫んだ。  その場に座り込む。頭を抱える。 「もう嫌だ、嫌だ!」  もう、こんなのは沢山だ。いくら日常から離れた場所だからとはいえ、悪夢を見るなんて。  そうだ、早く志摩子さんを連れて逃げよう。嵐だからって構うものか。この館にいるよりはマシだ。  この天候に、小笠原の人が様子を見に来てくれるかも知れないじゃないか。  あと何時間も、ここで迎えを待つなんて!  ……ズシン、と重い衝撃が。  痛みは感じない。視界がぼやける。  ゆっくりと振り向く。  右腕が、無いのに気づいた。 「……は、はは、あははは、はははっ」  笑いがこみあげてきた。そして、もう一撃。  倒れる私の視界に見えた人物が誰なのかわかった瞬間、私は「ちくしょう」と呟いた。  大振りな斧の三撃目が、私の意識を切断した。 ---- <2日目/???/聖の部屋> ----  何回か痙攣を繰り返して、二条乃梨子は動くことを止めた。  彼女は、どうやら死の間際に、私がどうやってこのゲームを行ってきたかを悟ったらしい。  でも、遅かった。  誰も、この空間からは逃れられない。  誰も、このゲームから逃れられない。  このゲームを終わらせる方法はただ一つ。  誰か、私を殺して。
「これは遊び? それとも人生のすべて?  ひとかけらのパンかしら? それとも人類の歴史のすべて?」   ──森博嗣「有限と微小のパン」より ---- <2日目/細川可南子/???> ----  ここはどこだろう。気がつけば、こんな場所に。  聖さまの部屋?  それとも、まさか犯人の部屋?  手足がしびれている。縛られていたから、血が止まってしまったのか。  喋れない。口に、布が──。  ──ドアが、開いた。  ああ、あの人は、私を──。 ---- <2日目/福沢祐巳/広間> ----  雨が、降る。  ああ、とても嫌な雨。  いつかの、お姉さまとの出来事を思い出す。    窓の外を見ることを拒否した私達は、カーテンを完全に閉め切っていた。  頭上の部屋で起きた、連続事件。  たった一日で、江利子さまが、蓉子さまが、由乃さんが……。  聖さまと可南子ちゃんが、二人で聖さまの部屋に閉じこもった。  令さまは全てを呪い、由乃さんが眠る資料室に閉じこもった。  そして、瞳子ちゃんが姿を消した。  全てが嫌になっていた。  あの令さまの一件から、どれくらい経ったのだろう。  部屋の真ん中に椅子を動かして、私とお姉さまはそこに座っていた。志摩子さんと乃梨子ちゃんも同じように座っている。二人も疲れているようで、うつむいたままだ。  沈黙は続く。聞こえる音は、自分の呼吸音と、激しい雨の音。 「──祐巳」  お姉さまが口を開いた。 「は、はい」 「……瞳子ちゃんを、探してくるわ」  ゆっくりと腰を上げるお姉さまの腕を、私は慌ててつかんだ。 「駄目です、お姉さま!」  咄嗟に言ったが、何が駄目なのか自分でもわかっていない。  お姉さまを一人にするのが? それとも、自分がお姉さまと離れるのが? 志摩子さんたちを置いていくのが?  ──瞳子ちゃんが、もし犯人だとしたら? 「……祐巳さん、どうしたの?」 「祐巳さま……」  志摩子さんと乃梨子ちゃんがこちらを見ているのに気づく。お姉さまは、少し眉をひそめていた。 「あ、す、すみません……」  私は手を離すと、お姉さまが頭を撫でてくれた。 「大丈夫よ。瞳子ちゃんは、私の大事な……」  そこまで言うと、お姉さまは目を閉じた。 「そして、祐巳にも、乃梨子ちゃんにも、志摩子にも……大事な人なんですもの」 ---- <2日目/佐藤聖/???> ----  私は、必死に縛られた手足をもがかせていた。  早く、ここから逃げなければ。  早く、犯人をみんなに伝えなければ。  祐巳ちゃんを、志摩子を──可南子ちゃんを、守らなければ。  床の上を転がる。縄は緩む気配を見せない。  いや、少しだけれど緩みだした。いける、これなら……! ---- <2日目/支倉令/広間> ---- 「だから、犯人なはずはない、って言うの?」  私はドアを開け放つと同時に言った。祥子や志摩子が、ハッとした表情で私を見る。 「令……」  祥子はよほど驚いたらしい。他の三人も、私をじっと見ている。  それもそうか。私はまだ、右手に日本刀を持っているのだ。 「みんな、聞いて。……可南子ちゃんが、殺されたわ」 「そんな!」  勢いよく立ち上がったのは乃梨子ちゃん。志摩子は口を押さえている。  祐巳ちゃんも、そして祥子も、口をパクパクと動かしているだけ。 「……嘘だ! 可南子さんが!」  乃梨子ちゃんは私が日本刀を持っているのも忘れて、こちら目掛けて走ってくる。私は避けない。 「あんたが! あんたが殺したに決まってる!!」  私を思い切り突き飛ばすと、階段に向かって走っていった。  床に座り込んだ私。カラン、と音を立てて、刀が床に落ちる。 「……令、本当なの?」  祥子の声に、私は頷くことしかできなかった。 ---- <2日目/二条乃梨子/三階廊下> ----  嘘だ。嘘だ。可南子さんが殺されるなんて。  だって、聖さまと一緒に部屋に閉じこもったじゃないか。  聖さまはどうなったんだ。どうしてあの人だけ。  聖さまが犯人か。それとも、令さまがあの刀で斬りつけたか。  ──まさか、瞳子が?  そんなはずは無い。  でも、もう、ここにいるのは──。  三階に上がると、私はあのバリケードに飛びついた。しかし、聖さまの部屋のドアを塞いでいたバリケードは、どかされていた。ドアが開いている。人が一人、通れるくらいのスペースが出来ている。  令さまがどかしたに違いない。外からこれを動かせるのは、あの人しかいない。  私は、そのスペースに身体を入れ、部屋を覗いた。  聖さまはいなかった。可南子さんもいない。  まさか、と思う。  まさか、令さまは「可南子さんが殺された」と嘘をついたのではないだろうか。  そうすれば、きっと私か祐巳さまが動くと思ったのだ。そうすれば、残るのは祥子さまと……。 「志摩子さん!!」  志摩子さんが危ない。あの刀で、令さまは──!!  私がそう叫んだ瞬間、嫌な臭いが鼻に届いた。  もう、嫌だ。この、血の臭いを嗅ぐのは!  しかし、私は部屋に足を踏み入れていた。  クロゼットが開いているのが見えた。そして、そこから、すらりとした足が見えている。  可南子さんは、そこにいた。  不自然なポーズだ、と一瞬思ったが、それは、首が胴体と離れているせいだ、と気づいた。 「う、うわあああああああああああああああああああ!!!!!」  私は叫んだ。  その場に座り込む。頭を抱える。 「もう嫌だ、嫌だ!」  もう、こんなのは沢山だ。いくら日常から離れた場所だからとはいえ、悪夢を見るなんて。  そうだ、早く志摩子さんを連れて逃げよう。嵐だからって構うものか。この館にいるよりはマシだ。  この天候に、小笠原の人が様子を見に来てくれるかも知れないじゃないか。  あと何時間も、ここで迎えを待つなんて!  ……ズシン、と重い衝撃が。  痛みは感じない。視界がぼやける。  ゆっくりと振り向く。  右腕が、無いのに気づいた。 「……は、はは、あははは、はははっ」  笑いがこみあげてきた。そして、もう一撃。  倒れる私の視界に見えた人物が誰なのかわかった瞬間、私は「ちくしょう」と呟いた。  大振りな斧の三撃目が、私の意識を切断した。 ---- <2日目/???/聖の部屋> ----  何回か痙攣を繰り返して、二条乃梨子は動くことを止めた。  彼女は、どうやら死の間際に、私がどうやってこのゲームを行ってきたかを悟ったらしい。  でも、遅かった。  誰も、この空間からは逃れられない。  誰も、このゲームから逃れられない。  このゲームを終わらせる方法はただ一つ。  誰か、私を殺して。 -[[続く>他人を巻き込んでお美しい薔薇さまは冷めた視線で熱く見る]]

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