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すべてが後ろに迫るその日までサヨナラ」(2007/12/31 (月) 22:21:41) の最新版変更点

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 ──暑い。なんて暑いのだろうか。  細川可南子は、走っていた。  真夏の炎天下を、まるでマラソンランナーのように走っている。  バスケット部の練習ではない。自主的な運動でもない。可南子は、追われていた。  全身から流れる汗。荒い息。  既に両手は惰性で振るだけであり、足だっていつ止まるかわからない。  右目に、汗が入る。これで何度目だろう。  全てが、厭になっていた。  立ち止まれれば、どれだけ楽だろう。  これが夢であったら、どれだけ幸せだろう。  可南子は走る。振り返る事も出来ない。  後ろを見るのが怖い。自分に迫り来るそれを認識する事を拒否している。  給水所なんてない。  沿道にだって人はいない。  いや──この世界には可南子以外の人間がいないのかも知れない。  脳裏によぎるのは、様々な言葉。 「──別に、私には関係ありませんわ──」これは松平瞳子の声だ。 「──そういえば、来週だよね──」これは、島津由乃の声。 「──早く準備しなくちゃ、大変だよ?──」二条乃梨子の声である。 「──明日、楽しみだね──」福沢祐巳の声が、最後に響いた。  可南子は、バランスを崩した。  小さく悲鳴を上げて、熱された鉄板のようなアスファルトに、無様に転がる。  迫る。迫る、迫る、迫る!  可南子は見てしまった。  おびただしい数の数字。空を覆い尽くし、全てを飲み込み、過去にしていく。  叫び声を上げるより早く、可南子は時間に飲み込まれた。 ---- 「……か、可南子ちゃん?」  祐巳は、ひどく驚いた声を上げた。  目の前に現れた可南子は、派手に転んだのか、衣類がぼろぼろであった。  膝や腕は大きな擦り傷で出血しているし、顔面は汗と血と涙でぐちゃぐちゃである。 「……申し訳ありません、祐巳さま……。遅刻した上に、このような格好では、遊園地には、とても──」  言いかける可南子に差し出されたのは、ハンカチである。 「まず、顔を拭いて」 「──はい」 「歩ける? 歩けるなら、私の家においで。手当てしなくちゃ」 「……は、はい……」 「よし、可南子ちゃん、元気出して!」 「……はい!」  遊園地デートは中止。  その代わり、祐巳の部屋に行く事が出来た、可南子なのであった。
 ──暑い。なんて暑いのだろうか。  細川可南子は、走っていた。  真夏の炎天下を、まるでマラソンランナーのように走っている。  バスケット部の練習ではない。自主的な運動でもない。可南子は、追われていた。  全身から流れる汗。荒い息。  既に両手は惰性で振るだけであり、足だっていつ止まるかわからない。  右目に、汗が入る。これで何度目だろう。  全てが、厭になっていた。  立ち止まれれば、どれだけ楽だろう。  これが夢であったら、どれだけ幸せだろう。  可南子は走る。振り返る事も出来ない。  後ろを見るのが怖い。自分に迫り来るそれを認識する事を拒否している。  給水所なんてない。  沿道にだって人はいない。  いや──この世界には可南子以外の人間がいないのかも知れない。  脳裏によぎるのは、様々な言葉。 「──別に、私には関係ありませんわ──」これは松平瞳子の声だ。 「──そういえば、来週だよね──」これは、島津由乃の声。 「──早く準備しなくちゃ、大変だよ?──」二条乃梨子の声である。 「──明日、楽しみだね──」福沢祐巳の声が、最後に響いた。  可南子は、バランスを崩した。  小さく悲鳴を上げて、熱された鉄板のようなアスファルトに、無様に転がる。  迫る。迫る、迫る、迫る!  可南子は見てしまった。  おびただしい数の数字。空を覆い尽くし、全てを飲み込み、過去にしていく。  叫び声を上げるより早く、可南子は時間に飲み込まれた。 ---- 「……か、可南子ちゃん?」  祐巳は、ひどく驚いた声を上げた。  目の前に現れた可南子は、派手に転んだのか、衣類がぼろぼろであった。  膝や腕は大きな擦り傷で出血しているし、顔面は汗と血と涙でぐちゃぐちゃである。 「……申し訳ありません、祐巳さま……。遅刻した上に、このような格好では、遊園地には、とても──」  言いかける可南子に差し出されたのは、ハンカチである。 「まず、顔を拭いて」 「──はい」 「歩ける? 歩けるなら、私の家においで。手当てしなくちゃ」 「……は、はい……」 「よし、可南子ちゃん、元気出して!」 「……はい!」  遊園地デートは中止。  その代わり、祐巳の部屋に行く事が出来た、可南子なのであった。

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