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ずっと側に居るから迷子になった」(2008/04/02 (水) 02:44:54) の最新版変更点

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<1日目/支倉令/別荘への道>  クルーザーの帰る音を背中に受けながら、私たちは小笠原の別荘を目指して歩いていた。 「天気は大丈夫なのかなぁ」  私が小さく言うと、お姉さまが答えてくれた。 「島の天気は変わりやすいというわね。大きく崩れなければいいのだけど」  そう言いながら上を向いた。私もつられて上を向く。  天気は快晴そのもので、しばらくは心配いらないと思った。 「どうやら、それは杞憂なのかもね」  お姉さまはそう言うと、ふふっ、と笑った。 「空は落ちてこないわ。大丈夫よ」 「そうみたいですね」  二人で笑っていると、後ろから祥子が「どうしたの?」と話しかけてきた。 「天気が崩れるのを心配したんだけど、心配ないみたいね」 「だって天気予報とにらめっこしたのよ?」  祥子の発言もなかなか面白いものだった。それでまたお姉さまが笑う。 「祥子が天気予報とにらめっこ……、くっくっく、うふふふっ」 「もう江利子さまったら、笑いすぎですわ」  笑いは伝染する。  後ろに続く祐巳ちゃんや志摩子たちも、色々な話をしていて笑っている。  天気と同じ。暖かな雰囲気は、私たちを包んでいる。  だから大丈夫。  このバカンスは、きっと、楽しいまま終わるよ。  私はこのときは、そう信じていて疑わなかった。    *** <1日目/小笠原祥子/森の入り口> 「……あら?」  私の呟きを聞いて、祐巳が小首をかしげる。 「どうしたんですか、お姉さま」 「いえ、この森、こんなに広かったかしら?」 「かしら? って言われても、私たちはわかんないよ」  聖さまが苦笑しつつそう言う。  しかし、私は本当に覚えがないのだ。この森は、こんなところに入り口はなかったはずだ。  本来なら、桟橋から真っ直ぐ進むと、森に続く道と館へ続く道の分岐がある。だから、真っ直ぐ歩いてきたこの道に、森があるのはおかしいのだ。  上がった場所を間違えた? いや、それは違う。桟橋は一箇所しかないのだから。海岸を歩き、ぐるりと反対側までいけば道はあるが、そっちだって館の裏手に続くのだから。 「祥子?」  お姉さまの声に、思考の海に潜っていた私は我に返った。 「い、いえ。……行きましょう」  なぜここで私たちは引き返さなかったのか。  私は死ぬまで、この決断を悔いていくことになるのだ。    *** <1日目/佐藤聖/森の中> 「結構歩くんだねぇ」  私はのんびり言う。少し汗ばんでいるが、ほどよい疲れだ。 「え、ええ……、もう少しで着きますから……」  祥子はさっきから歯切れが悪い。  道に迷ったとか……? でもずっと一本道だしなぁ。もし迷ってても、戻れば済むことだ。 「ねぇ、こんな話、知ってる?」  そんなとき、江利子が変なことを言ってきた。 「んー?」  後で思った。  江利子の話を、聞かないほうがよかった、と。    *** <1日目/鳥居江利子/森の中での会話>  ──ある豪華客船が沈んで、8人の乗員と乗客が1隻の救命艇に乗っていたの。  その救命艇の周囲には濃い霧が立ち込めていて、数メートル先は全く見えない。  そんな時、乗り合わせていた占い師がこう言うのよ。 「この船には、死神が乗っている。その死神を追い出さない限り、霧は晴れず、助けは来ない」  最初は乗っている人は、誰もその占い師の話に耳を貸さなかった。  その内、怪我をしていた男が死んだ。  食料を独り占めしていた男は、もみ合いの末に海に落ちた。  だんだんと皆は疑心暗鬼に陥ってきた。  そしてついに……殺し合いが始まるの。 「こいつが死神だ」 「こいつを殺せ」  狂った思考に支配された人々は、占い師を殺し、海に落とした。  しかし、霧は晴れない。  じゃあ、こいつだ。次の人を殺しても、海に落としても、霧は晴れない。  そして最後は、誰も残らなかった。  霧は晴れない。誰も助からない。  死神は、その船に乗っていた全員の心に宿っていた悪しき心だったのよ──    *** <1日目/島津由乃/森の中> 「江利子さま、それって昔の漫画のやつでしょー」  私はそう言って笑い飛ばした。すると、デコを光らせて、 「あ、やっぱり由乃ちゃんは知ってたかー」  なんて言ってカラカラ笑っている。  まったくもう。このデコは。  でも……怖い。  もし、本当にそうなら、嫌なんてもんじゃない。  うーん。面白い、とは思えないなー。  私の発言で、深刻そうな皆の顔が和らいだ。  皆で「このデコ」「デコが」と言って江利子さまのデコをペチペチ叩いている。  ま、大丈夫でしょう。この皆なら、明るく済ませれるでしょう。  迷ったって大丈夫。絶対に、いいバカンスになる。  そう思っていたのに……。  あんなことに、なるなんて……。  やっぱり私は、このデコのことを、許せそうにない。
<1日目/小笠原祥子/森の入り口> 「……あら?」  私の呟きを聞いて、祐巳が小首をかしげる。 「どうしたんですか、お姉さま」 「いえ、この森、こんなに広かったかしら?」 「かしら? って言われても、私たちはわかんないよ」  聖さまが苦笑しつつそう言う。  しかし、私は本当に覚えがないのだ。この森は、こんなところに入り口はなかったはずだ。  本来なら、桟橋から真っ直ぐ進むと、森に続く道と館へ続く道の分岐がある。だから、真っ直ぐ歩いてきたこの道に、森があるのはおかしいのだ。  上がった場所を間違えた? いや、それは違う。桟橋は一箇所しかないのだから。海岸を歩き、ぐるりと反対側までいけば道はあるが、そっちだって館の裏手に続くのだから。 「祥子?」  お姉さまの声に、思考の海に潜っていた私は我に返った。 「い、いえ。……行きましょう」  なぜここで私たちは引き返さなかったのか。  私は死ぬまで、この決断を悔いていくことになるのだ。    *** <1日目/佐藤聖/森の中> 「結構歩くんだねぇ」  私はのんびり言う。少し汗ばんでいるが、ほどよい疲れだ。 「え、ええ……、もう少しで着きますから……」  祥子はさっきから歯切れが悪い。  道に迷ったとか……? でもずっと一本道だしなぁ。もし迷ってても、戻れば済むことだ。 「ねぇ、こんな話、知ってる?」  そんなとき、江利子が変なことを言ってきた。 「んー?」  後で思った。  江利子の話を、聞かないほうがよかった、と。    *** <1日目/鳥居江利子/森の中での会話>  ──ある豪華客船が沈んで、8人の乗員と乗客が1隻の救命艇に乗っていたの。  その救命艇の周囲には濃い霧が立ち込めていて、数メートル先は全く見えない。  そんな時、乗り合わせていた占い師がこう言うのよ。 「この船には、死神が乗っている。その死神を追い出さない限り、霧は晴れず、助けは来ない」  最初は乗っている人は、誰もその占い師の話に耳を貸さなかった。  その内、怪我をしていた男が死んだ。  食料を独り占めしていた男は、もみ合いの末に海に落ちた。  だんだんと皆は疑心暗鬼に陥ってきた。  そしてついに……殺し合いが始まるの。 「こいつが死神だ」 「こいつを殺せ」  狂った思考に支配された人々は、占い師を殺し、海に落とした。  しかし、霧は晴れない。  じゃあ、こいつだ。次の人を殺しても、海に落としても、霧は晴れない。  そして最後は、誰も残らなかった。  霧は晴れない。誰も助からない。  死神は、その船に乗っていた全員の心に宿っていた悪しき心だったのよ──    *** <1日目/島津由乃/森の中> 「江利子さま、それって昔の漫画のやつでしょー」  私はそう言って笑い飛ばした。すると、デコを光らせて、 「あ、やっぱり由乃ちゃんは知ってたかー」  なんて言ってカラカラ笑っている。  まったくもう。このデコは。  でも……怖い。  もし、本当にそうなら、嫌なんてもんじゃない。  うーん。面白い、とは思えないなー。  私の発言で、深刻そうな皆の顔が和らいだ。  皆で「このデコ」「デコが」と言って江利子さまのデコをペチペチ叩いている。  ま、大丈夫でしょう。この皆なら、明るく済ませれるでしょう。  迷ったって大丈夫。絶対に、いいバカンスになる。  そう思っていたのに……。  あんなことに、なるなんて……。  やっぱり私は、このデコのことを、許せそうにない。

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