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テレビ命嫌わないで」(2008/04/02 (水) 02:39:11) の最新版変更点

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 その日、由乃はテレビに釘づけだった。 「あははっ!」  大好きなお笑いタレントが出ている番組が多くて、テレビの前から離れられずにいたのだ。  そこにやってきたのは、最愛の相手、令。片手にクッキーを持っている。 「由乃、クッキー焼いたよ」  令の頭の中では、素敵な光景が展開されていた。 「わぁっ、ありがとう令ちゃん!」 「こらこら、そんなにがっつかなくても、まだあるってば」 「だって美味しいんだもん」 「あ、由乃。口の周りに、クッキーが付いちゃってるよ」 「えー、本当?」 「私が取ってあげるよ。……唇で……ね」 「うん……。お願い、令ちゃん……」  以上、令ちゃん脳内スプリングフェスティバルの模様でした。  しかし、現実は厳しくて。 「ん。そこ置いといて」  由乃は一瞥をくれることもなく、テレビを見たまま。令は小さくため息をつきつつ、テーブルにクッキーの入った容器を置き、自分も座った。  由乃は手探りでクッキーを掴むと、笑いながらボリボリを貪り食らう。 「……由乃。行儀が悪いよ」 「令ちゃん、うるさい」  再びため息。令は自分の焼き上げたクッキーを一枚、優しくかじる。 (今日は、久々に会心の出来なのになぁ……。由乃ってば、テレビに夢中だよ……)  三度目のため息。 (あと半分は、明日学校に持っていこう。祐巳ちゃんならきっと、笑顔で食べてくれるだろうし)  ちら、と従妹の顔を見る。その横顔は笑顔だが、テレビの中のタレントに向けられた笑顔である。 (……うう、私は、由乃のために焼いたのに……)  四度目のため息は、心の中でついた。 (あー、なんか、泣きそう……)  そう思った瞬間、令の目頭がかっと熱くなった。  慌てて立ち上がると、 「ちょっと急用思い出したから、帰るね」 「ん」  令は涙がこぼれないうちに部屋を出ようとしたのだが、それを呼び止めたのは、由乃の声だった。 「令ちゃん」  振り向けない。振り向いたらきっと、流れだした涙を由乃に見られてしまうから。 「……なに?」 「どこかに行くなら、気を付けてね」 「……うん」 「それと、クッキーありがとう。なんだか、いつもより美味しい気がする」 「き、今日は、いつもよりいい出来だったんだ」 「祐巳さんたちにも食べさせたいな」 「……ま、まだあるから! 明日、持っていくよ!」 「うん。……呼び止めてごめんね。いってらっしゃい、令ちゃん」  令は、少しだけ、顔だけで振り返った。  由乃の笑顔は、令に向けられていた。 「……うん、行ってきます」  島津家から自分の部屋に戻ってから、令は頭を抱えた。 「あー、小さい自分がだいっ嫌い!!」  令が部屋に戻った頃、由乃はテレビを見つめていた。画面には、反転した自分の顔。電源はとうに切ってある。 (令ちゃんは、自分で気付いてないのよね。あんなに声のトーンが変われば、たとえ祐巳さんだって気付くわよ)  天の邪鬼な由乃は、大好きな姉がいなくなってから、そんなことを思うのだった。 「後で、謝ろうっと」  令ちゃんが『どこかに出かけて帰ってくる』辺りに、お部屋に行こう。  由乃はそう思い、クッキーをかじった。細かい粉と一緒に、愛情が溢れた気がした。

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