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シリーズ朱薔薇さまシスター探偵」(2008/04/02 (水) 02:37:52) の最新版変更点

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 私の名前は、篠原朱美。演劇部三年にして、この学園の『探偵』なんてやっている。  人は私をこう呼ぶのだ。『シスター探偵』と。 【シスター探偵・朱美】 【第一話、ホームズとワトスン】  いつものように、演劇部の部室で次回公演の脚本を書いていた私に、お客が訪ねてきた。 「ごきげんよう、朱薔薇さま」  演劇部一年、松平瞳子さん。名家のお嬢様であり、将来有望な女優の卵でもある。彼女は私を『朱薔薇さま』と呼んだ。 「ごきげんよう、瞳子さん。私をそう呼ぶということは、『探偵』としての私に用があるのね?」 「はい。お話を聞いてくださいますか?」 「伺うわ」  瞳子さんが持ってきた『事件』は、薔薇の館で起こった盗難騒ぎだった。  姉である紅薔薇のつぼみ、福沢祐巳さんと二人きりで書類整理をしていたとき、一階から物音が聞こえたという。  二人でそれを見に行くと、物置の中のパイプ椅子が倒れていた。椅子を元の位置に戻してから二階へと上がると、机の上にあったはずの書類が消えていた。  これが事件の内容だった。 「ふむ。他に変わったことは?」 「一階の物置なのですが、閉まっていたはずの窓が開いていました。それに、私とお姉さまが物置にいたとき、誰かが二階に上がった気配が」 「階段を上がる足音は?」 「椅子や段ボール箱を整理していたので、物音に紛れてしまったかも知れません」 「二階の変化は、書類以外は?」 「それは私にはわかりませんでした」 「その日は、貴方と祐巳さん以外に誰かいた?」 「いえ。他の方は皆部活や委員会で、その日は私たちだけでした」  頭の中で、状況を箇条書きにし、組み替えていく。瞳子さんはじっと私の顔を見ていた。 「……じゃあ、その前日は?」 「前日、ですか」 「ええ」 「えっと……、テニス部の桂さまに、私と同じクラスの可南子さん、あとは新聞部の三奈子さまがいらっしゃいました」 「……ふむ。じゃあ、最後にひとつ。倒れていた椅子に、何か絡み付いていなかった?」 「……セロテープが、貼ってありましたが」  私は指を鳴らした。そして立ち上がる。 「あ、あの、朱美さま?」 「書類を取り戻してくるから、待っててちょうだい」  私はそう言って、部室を出た。  向かう場所は、クラブハウスである。 「ごきげんよう。演劇部です」  私はドアをノックして、そう名乗った。少しして、中からドアが開く。その人物は私の顔を見ると、表情が強ばった。 「ごきげんよう、三奈子」 「……ごきげんよう、朱美……」  私の親友、築山三奈子。新聞部の部長で、かつてのリリアンかわら版編集長である。 「他の部員は?」 「今日はいないわ」 「都合がいいわ。入っても?」 「……どうぞ」  新聞部の部室は薄暗く、編集用のデスクにだけ、小さなライトが灯っている。 「ねぇ三奈子。貴方って、釣りとかしたかしら?」 「しないわよ。それが何か?」 「いや、テグスか何かないかな、と思ってね」  三奈子は眉間にしわを寄せた。 「……いくらスクープを狙うからって、窃盗はよくないわよ、三奈子」 「……朱美」 「家から持ってきたのかどうか知らないけど、テグスをテープで固定したのはいい手だったわ。ただ、テープが残ったのは痛かったわね。次からは、引くだけで簡単に解ける結び方をマスターすることね」  三奈子は黙ったまま、私を見ている。 「二人を誘導したのはよかったけど、ずいぶんと大胆に動くじゃないの。背後を通って堂々と二階に行くなんてね。それに、どうせ机の下にずっといたんでしょ?」 「……朱美。私の負けよ」 「じゃあ、書類を返して。未来の大女優が待ってるんだ」  三奈子は、クリアファイルごと書類を渡してきた。やはり三奈子の目的は、書類ではなかったようだ。 「……朱美に勝てた試しがないわね」 「他人を巻き込まないで、私に勝負しなさいよ。祐巳さんだって困ってると思うわ」 「……時間がないのよ。もうすぐ卒業。そうしたら、朱美に勝負を挑めなくなってしまうわ」 「……貴方も、一緒にくる?」 「イギリスに? 御免だわ」 「私にはワトスンが必要なんだけどな。ホームズだけじゃ限界があるわよ」 「ヘイスティングスでも誰でも探せばいいわ」 「ヘイスティングスはポアロよ、三奈子」 「私は無理。ワトスンにはなれないわよ。朱美にはもっといいパートナーが見つかるわ」 「……じゃあ、三奈子は私の永遠のライバルになればいいわ」  私は三奈子の肩を軽く叩いて、ごきげんよう、と言って、新聞部を後にした。  あんな悲痛な顔をしなくてもいいのに。今すぐにでもイギリスに行くわけじゃないんだから。……また明日、ここで会えるんだから。 「はい、瞳子さん」 「ありがとうございます」 「犯人は聞かないであげて。反省してるみたいだし」 「はい、朱美さま」 「……ところで瞳子さん。次の公演の台本なんだけど」 「はい」 「簡単なミステリなんてどうかしら」 「朱美さまが書くミステリは、本格すぎですよ」 「そうかしら? 結構ライトな感じで行くわよ。当然、主役はホームズね」 「ホームズだとガチガチの本格じゃないですか?」 「そんなことないわよ。だって……」 「だって?」 「ホームズが、モリアーティ教授と親友なんだよ?」

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