「第二話/明日葉姉妹の登校」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る

第二話/明日葉姉妹の登校 - (2008/04/02 (水) 02:01:51) のソース

 姉が妹にちょっかいを出している。と、そこに黒塗りの車が停まった。 
「よっ、明日葉姉妹。相変わらずエロいな」 
 窓を開けてそう言ったのは、二人の知り合いの海野流鏑馬である。にやにやしている流鏑馬に、ミドリは言った。 
「エロくないです!」 
「妹はそうでも、姉がエロい」 
 ぼん、きゅっ、ぼんの身体に不釣合いなセーラー服。何度も言うが、そちらのお店の方ではない。 
「ぅあ、確かに」 
 姉に対して軽い敗北感を抱く妹。気持ち的にはorzな感じだ。 
「ええ、私エロいの?」 
 しかし妹の気持ちを知ってか知らずか、ユカリは驚きの声を出す。 
「自覚ないの!?」 
「あったらセーラー服着ねぇよ。ほら、後ろに乗りな。送ってやるから」 
 呆れた風に流鏑馬が言った。 
「でも」 
「そのペースだと遅刻だろ。ほら乗った乗った」 
「えへへー、一緒に助手席乗ろうよ」 
「助手席はひとり!」ミドリが叱る。 
「別に、膝に乗ればいいんじゃね?」 
「おお、天才現る」 
「流鏑馬さん!」 
 結局二人は後部座席に乗ることになった。ユカリはミドリの肩に頭をあずける。 
「えへへー」 
 流鏑馬が、そんな二人を見て、尋ねた。 
「なぁ。たまに思うんだけど、姉は頭が弱いのか?」 
「し、失礼な!」 
 ユカリが慌てて反論する。 
「その反応がありゃ心配はねぇか。でも、妹の気持ちも考えろよ」 
「ミドちゃん……もしかして、迷惑?」 
 少し顎を引いた上目遣いのユカリ。狙ってではなく、天然でやるから困る。 
「……ほんの少しだけ」 
「……ふぇ」 
「あ、あ、あ、泣かないでお姉ちゃん!」 
 わたわたしている妹をバックミラーで見る。 
 流鏑馬はため息をつき、こう思った。 

 ──あぁ、頭じゃなくて心が弱いのか、姉は。 

   ***** 

「おはようござーます!」 
 ユカリが元気に挨拶をする。クラスメイトたちはみんな笑顔で返事をしてくれる。 
 市立希望ケ丘女子高等学校。一年風組の教室である。明日葉姉妹の席は隣同士で、窓側がユカリ、廊下側がミドリだ。 
 席につくや否や、ユカリに金色の獣が突撃してきた。 
「Good Morning, ユカリ♪」 
「ぐどもーにん、ジョー♪」 
 アメリカからの留学生、ジョアンナ・ハミルトンである。ユカリと同じくらいのデンジャラスバディが教室を駆け抜け、ユカリに抱きついてきた。 
「キョーもSexyだヨ、ユカリィ♪」 
「てんきゅーてんきゅー。そう言うジョーもめちゃセクシー♪」 
 この二人が会話すると、何故か語尾に♪がつく。いや、そんな気がする。 
 とにかく教室は賑やかなもので、ユカリとジョアンナが国境を越えていちゃいちゃしていると、その横ではミドリが前の席の池澤卑弥呼と話をしていた。 
 ──お姉さん、毎日楽しそうよね── 
「そうね。特にジョーと一緒だと、元気が増してるみたいだわ」 
 ──私も、あの元気さが欲しい── 
「卑弥呼はそのままでいいよ。その方が、卑弥呼って感じ」 
 ──そう。そう言ってくれると、嬉しいわ── 
 池澤卑弥呼はやけに声が細い。どのくらい細いかと言うと会話しているのに「」が使えないくらいに細い。そんな卑弥呼と普通に会話ができるのだから、ミドリは卑弥呼との「通訳」もよくしていた。 
「そろそろ先生来るんじゃない?」 
 誰かがそう言うと、卑弥呼はミドリに微笑んでから前を向いた。ジョアンナは軽くユカリの頬にキスをして、「それジャ、またあとでネ♪」と言って自分の席に戻っていく。 
 教室のドアが開いた。担任教師の巽翼が入ってきた。 
「おはようございます、みなさん」 
 厳格そうなイメージの教師だ。しかし、それは外見だけである事を、生徒たちは知っていた。なぜなら「おっはー、翼」とユカリが言えば、「おっはー、ゆかりん」と返すからだ。 
 二人は元々同級生なのだが、何がどうしてこうなったのか、生徒と教師の関係になってしまった。 
「さて、ホームルーム始めるわよ。委員長、プリント配って」 
 今日もまた、ドタバタした学園生活が始まる。