耳障りな音。 規則的な電子音。 抑揚の無い機械音。 目覚ましの音。 彼女の携帯電話の、目覚まし機能のアラーム。 布団に潜ったまま手だけを伸ばして、矢口真里は携帯電話を握り締めた。 「んん……」 真里は右目だけを薄く開いて、親指を駆使してアラームを解除する。 ステップモードになっているので、音量がどんどん大きくなっていく。 「……うるさい……」 右手だけでは解除できない。そこで、左手も出動することになった。 ……しかし、アラームは解除されない。 「……なんで?」 体を起こして胡坐をかくと、布団が落ちた。 布団の端に引っかかっていた携帯電話の充電コードが、音も無く外れた。 充電中ランプが消えると同時に、画面におかしな文字が表示され出した。 「……?」 真里は顔を近づける。まだ満足に頭が働いていない。 目をこすっていると、その文字が読み取れるようになってきた。 バクダン_ 画面にはそう表示された。 普通に考えてこれは「爆弾」なんだろう。ゲームが好きな真里は、咄嗟に「ボンバーマン」を思い浮かべた。 しかし「ボンバーマン」は関係なさそうだ。 バクダン サドウ_ 文字が更に表示された。ますます意味がわからない。 「爆弾作動?」 声に出す。「ボンバーマン」のアイテムで「リモコン」というのがあるのを思い出した。 爆弾をセットして、離れてからポチッとボタンを押すと爆発する優れものだが、別のアイテムの効力で火力が増しているのを忘れていて押したら自分だけ爆死して相手は逃げていたというのを思い出して、真里は少し機嫌が悪くなった。 バクダン サドウ タイムリミット_ 「あ、改行した」 バクダン サドウ タイムリミット ノコリ 5:00:00_ 「五時?」 バクダン サドウ タイムリミット ノコリ 5:00:00 (5minits) 「ああ、五分ね」 真里は理解したのか、「ふぅーん」と言って何度か小さく頷いた。 要するに、「あと五分で爆弾が爆発するから、時間内になんとかしろ」という事だ。 「……うるさいなぁ」 まだアラームは鳴っている。とりあえず真里は電源ボタンを一度だけ押した。 バクダン サドウ タイムリミット ノコリ 4:59:** (5minits) 一番下の数字がえらい勢いで回転しだして、「秒」の数字も回転しだした。 「わ、動いた」 真里は大して動じていない。まだ脳が眠っているのかもしれない。本当に爆弾だと思っていないようだ。 のそのそとベッドから降りて、充電コードを繋いで、ベッドの上に置いて、まずトイレに入った。 戻ってきたら残り時間が三分を切っていた。 あくびをして、携帯電話を机の上に移動して、ぼーっとしていた。 見ると、残り時間が三十秒も無かった。 数字はみるみる減っていく。 あと五秒。 あと四秒。 あと三秒。 あと二秒。 あと一秒。 アラームが止まった。 時間が止まった。 爆音が聞こえる前に、真里の視界は黄色と赤に染まり、それが何かと認識する前に、意識が吹き飛んだ。 轟音。 真里の住んでいたマンションは跡形も無く吹き飛んだ。 ──耳障りな音。 規則的な電子音。 抑揚の無い機械音。 目覚ましの音。 彼女の携帯電話の、目覚まし機能のアラーム。 布団に潜ったまま手だけを伸ばして、矢口真里は携帯電話を握り締めた。