<2日目/二条乃梨子/3階廊下> ---- 蓉子さまのお部屋と、聖さまのお部屋から、動かせそうな家具は全て廊下に移動させた。それを使って、聖さまのお部屋のドアを塞ごうというのだ。 提案者は聖さま自身。あの時、疑わなかったといえば嘘になる。でも……。 信じたくなんかない。江利子さまや蓉子さま、それに由乃さまが殺されたなんて。令さまがあんなに取り乱すのも見たくなかった。姿を消した瞳子だって。それに、聖さまが犯人かも知れないなんて。 「乃梨子ちゃん」 聖さまの声。私は部屋の中を覗いた。 困ったような表情を浮かべる聖さまと、可南子さん。聖さまは犯人じゃない、と言い、可南子さんも一緒に残ると言ったのだ。 「志摩子や、祐巳ちゃんのことをお願いね」 「……はい」 「じゃあ、バリケードお願いね。──ごきげんよう」 ゆっくりとドアが閉まる。閉まったと同時に、少し離れた場所にいた祥子さまと祐巳さまがため息をついた。志摩子さんは、ずっと廊下にしゃがんだままだ。 「──祐巳さま。バリケードを……作りましょう」 「うん……」 ---- <2日目/支倉令/資料室> ---- 冷たい。 冷たい。 頬をそっと撫でる。 瞳は濁ったまま。 心臓は動いていない。 両手はだらりと下がったまま。 口は少しだけ開かれて、端から血の筋が一本。 それを舌先で舐めとる。 由乃の味。 由乃の血の味。 ざっくりと裂けた背中。 溢れ出た血液。 凶器は目の前にある。 この大きな日本刀が、由乃の命を奪った。 「由乃」 名前を呼ぶ。 「お姉さま」 あの笑顔はもう見れない。 「蓉子さま」 あの声はもう聞けない。 「……由乃……お姉さま……」 涙は出ない。 枯れたかも知れない。 壊れたかも知れない。 「私は、どうしたら……」 そう呟いた時、気づいた。 強く握られた由乃の右手。 何かを、握り締めている。 「……」 私は、そっと開かせた。 血で汚れた紙。 そこにあったのは──。 「……蓉子も、聖も、仲間よ……」 誰だ。 この文面を書いたのは誰なんだ。 蓉子さまたちを呼び捨てにできるのは、ここに来たメンバーではただ一人。 「お姉さまが……、お姉さまと、蓉子さまたちが、仲間?」 何のことだ。 ただ一つだけ言えるのは、これを書いたのがお姉さまだとして、三人の中で生き残っているのは聖さまだけだということ。 何かの計画があり、三人の中で仲間割れがあったとか? ──聖さまに訊かなくては。 場合によっては、聖さまを殺さなくてはいけない。 犯人である可能性が俄然高いのは、あのお方なのだから。 私は由乃をそっと床に寝かせて、廊下に出た。 「──バリケード……?」 一番奥の部屋は聖さまの部屋だが、そのドアの前には棚や椅子が積み重ねられている。 あれはバリケードなのだろうか。 聖さまは、あの部屋の中にいるのか。 私はゆっくりと廊下を歩く。 右手には、ああ、愛する妹の、私の唯一の女神の血を吸った、日本刀を持って。 ---- <2日目/???/3階のとある部屋> ---- ──処理は終わった。 最初に私の姿を見たとき、この目の前に倒れている長身の少女はとても驚いたっけ。 悲鳴をあげる間もなく、スタンガンで気を失わせた。 異変に気づいたときにはもう遅く、白薔薇さまも今は深い夢の中。 二人で生まれたままの姿になって、まるで獣のように身体を重ねていたわよね。 リリアンの乙女が、はしたない。 そんな二人には、罰を与えなくてはね。 だから眠らせてあげた。 そして、二人の手足を縛ってあげたのは私。 小さく開かれた口に猿轡を噛ませたのも私。 このまま殺すのは簡単。 でも、このまま殺すのは面白くない。 今は、別のメンバーがどう動くかを観察しようじゃないか。 ああ、資料室のドアが開いた。 ミスターリリアンがどう動くか楽しみにしながら、私は自慢の髪型を少し整え、にこりと微笑んだ。 -[[続く>一人ぼっちの花は散り]]