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なつかしの社内報1」(2008/01/11 (金) 12:45:10) の最新版変更点

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**Hitman 深夜12:00.オホーツク海からの寒波が吹きすさぶ。ヒートアイランド東京の夜は、日中とのバランスを保とうとするがごとく、寒さが暴威を振るう。次第に増す寒さの中、こうこうと光る東山ビル。  その4階フロアーに、私はいた。おもむろにたばこをくわえ、紫煙をはきだす。端末の電源を入れると、ハードディスクがカラカラと乾いた音を立てる。パンバレーに「CHIYODA」の文字が浮かび上がると、ぐすっとした笑いがこみ上げる。アベンドだ。  つい先ほどまで「ショーヤ」というBarにいた。メキシコ人とアボリジニの混血である「ラパエロ」が経営している。たばこの紫煙にかすみ、いつも通りの喧騒を携えていた。「酒だっ。スコッチをくれっ!」アメリカからの移民「クリス」のがなり声が聞こえる。こいつは少し知恵遅れだ。  ほのぐらい店内の片隅でテキーラを傾けていると、カウンターに置かれた旧式の電話機が甲高い音を立てた。 「山田、電話だ。」  ラパエロのよく通る声が聞こえる。  受話器を受け取り、耳に当てると、背中の筋肉がビリッとふるえた。「ゴーッ」っという機械音が聞こえる。マシンルームだ。 「仕事だ。」  訓練され、抑制の効いた声からは何の感情も感じ取れない。 「NF0561で0CB」 ・・・暗号だ。    夜の山手通りを246方向へ進む。深夜の通りは、緘口令をしかれたかのごとく人気が無い。研ぎ澄まされた静寂を、車のヘッドライトが切り裂いていく。ふと振り向くとクリスが猛然と駆け寄ってくる。 「おいっ、逃げるのか?」  最近出回っている安物のマリファナで錯乱しているようだ。もともと知恵送れなのだから仕方が無い。私が黙ってそいつの目をにらみつけると、 「ちっちぇーー、」 と叫びながら、走り去っていった。もともと小心者なのだ。    東山のビルの裏口にはいり、暗証番号を入力する。カチャッと金属の擦れ合う音が響く。4Fの鍵を取り出し、エレベーターへ向かうと、7階で止まっていた。昇りのボタンを押し、エレベーターランプに目をやる。点々と下り来るランプに目をやりながら、たばこに火をつける。ゆっくりと紫煙を吐出すと、エレベーターの扉が開いた。  背中の筋肉がビリッと震える。顔をゆがめた男がうずくまっている。こいつには見覚えがある。新興組織ホットサポートのヒットマンだ。シチリア系のギャングから分派したこの組織は、最近、東京に進出してきた。私の属する組織とは抗争が続いている。そう、こいつの名前は「ジャヴァ」。コードネーム「ブーメランパンツ」だ。  無言でその男の目を見詰める。 「・・・おれも焼きが回った。こんなところでくたばるとはな・・・」  そうつぶやくと、吐瀉物を吐出し、くず折れた。  数々の伝説を残し、クールサポートの英雄であった男の最後だ。裏の世界ではこんな死に方がよく似合う。 私はジャヴァの目を閉じてやり、4Fのボタンを押した。  端末と向かい合う。画面には無数のアルファベットが展開されており、幾何学模様を連想させる。  データの羅列を解析する。この暗号は、冷戦時代にソ連が開発したものだ。東側の諜報・工作員でも数名の人間だけしか、この暗号の存在を知らされていなかった。ペレストロイカ後、その存在はおおやけになった。  NF0561で0CB。  この暗号の意味するところは、スペイン語で「ランパブ デ・ララパルーザ」。「会計で大爆発」という意味だ。どうやら5Kgのプラスチック爆弾が使われたようだ。最近、中東のゲリラ組織が資金集めのために横流しをしている噂を思い出す。  たばこに火をつけ、紫煙を吐出す。ダンプと呼ばれる暗号の解読には根気と度胸がいる。最終的には、解読者のクリエイティブが要求される。要するに「雰囲気」だ。車の走る音が耳朶にこびりつく。私はねばついた笑いを浮かべた。長い夜になりそうだ・・・。  暗号の解読を終えると、黒幕らしき人物が浮かび上がった。たいした人物ではない。生かすか、殺すか。再びねばついた笑いが浮かぶ。私は後者を選択すると、ゆっくりと紫煙を吐出した。マシンルームにヒットマンの要請を出すべく電話をする。 「緊急でコンパイルを頼む。」 冷徹な声が返ってくる、 「分かった。すぐに実行する。」 再びたばこに火をつける。紫煙の先には、夜のとばりがあるだけだ。急速な睡魔が襲ってきたが、まだ寝ることはできない。私は深々と紫煙を吸いこみ、ゆっくりと吐き出した。  静寂に包まれた4Fフロアー。そのしじまを、電話の音が駆け抜けた。受話器を取る。 「ゴーッ」 マシンルームだ。 「失敗だ。  NF0561で0CB」  臀部の筋肉がビリッと震えた。漏れたらしい。受話器の向こうから、ぐすっとした笑いが聞こえる。  再びダンプを解読する。どうやら、黒幕は二人いたようだ。私は懐から鉄の塊を取り出す。旧ソ連の正式軍用拳銃「トカレフ」だ。  鈍く光る銃口をこめかみに当てると、引き金を引く。薬莢が乾いた音を立てて床に落ちる。  失敗は許されない。  銃口からは白煙が立ち上り、こめかみからはとめどなく血が流れた・・・。 [[上へ>雑   文]] ----
**Hitman 深夜12:00.オホーツク海からの寒波が吹きすさぶ。ヒートアイランド東京の夜は、日中とのバランスを保とうとするがごとく、寒さが暴威を振るう。次第に増す寒さの中、こうこうと光る東山ビル。  その4階フロアーに、私はいた。おもむろにたばこをくわえ、紫煙をはきだす。端末の電源を入れると、ハードディスクがカラカラと乾いた音を立てる。パンバレーに「CHIYODA」の文字が浮かび上がると、ぐすっとした笑いがこみ上げる。アベンドだ。  つい先ほどまで「ショーヤ」というBarにいた。メキシコ人とアボリジニの混血である「ラパエロ」が経営している。たばこの紫煙にかすみ、いつも通りの喧騒を携えていた。「酒だっ。スコッチをくれっ!」アメリカからの移民「クリス」のがなり声が聞こえる。こいつは少し知恵遅れだ。  ほのぐらい店内の片隅でテキーラを傾けていると、カウンターに置かれた旧式の電話機が甲高い音を立てた。 「山田、電話だ。」  ラパエロのよく通る声が聞こえる。  受話器を受け取り、耳に当てると、背中の筋肉がビリッとふるえた。「ゴーッ」っという機械音が聞こえる。マシンルームだ。 「仕事だ。」  訓練され、抑制の効いた声からは何の感情も感じ取れない。 「NF0561で0CB」  ・・・暗号だ。    夜の山手通りを246方向へ進む。深夜の通りは、緘口令をしかれたかのごとく人気が無い。研ぎ澄まされた静寂を、車のヘッドライトが切り裂いていく。ふと振り向くとクリスが猛然と駆け寄ってくる。 「おいっ、逃げるのか?」  最近出回っている安物のマリファナで錯乱しているようだ。もともと知恵送れなのだから仕方が無い。私が黙ってそいつの目をにらみつけると、 「ちっちぇーー、」 と叫びながら、走り去っていった。もともと小心者なのだ。    東山のビルの裏口にはいり、暗証番号を入力する。カチャッと金属の擦れ合う音が響く。4Fの鍵を取り出し、エレベーターへ向かうと、7階で止まっていた。昇りのボタンを押し、エレベーターランプに目をやる。点々と下り来るランプに目をやりながら、たばこに火をつける。ゆっくりと紫煙を吐出すと、エレベーターの扉が開いた。  背中の筋肉がビリッと震える。顔をゆがめた男がうずくまっている。こいつには見覚えがある。新興組織ホットサポートのヒットマンだ。シチリア系のギャングから分派したこの組織は、最近、東京に進出してきた。私の属する組織とは抗争が続いている。そう、こいつの名前は「ジャヴァ」。コードネーム「ブーメランパンツ」だ。  無言でその男の目を見詰める。 「・・・おれも焼きが回った。こんなところでくたばるとはな・・・」  そうつぶやくと、吐瀉物を吐出し、くず折れた。  数々の伝説を残し、クールサポートの英雄であった男の最後だ。裏の世界ではこんな死に方がよく似合う。 私はジャヴァの目を閉じてやり、4Fのボタンを押した。  端末と向かい合う。画面には無数のアルファベットが展開されており、幾何学模様を連想させる。  データの羅列を解析する。この暗号は、冷戦時代にソ連が開発したものだ。東側の諜報・工作員でも数名の人間だけしか、この暗号の存在を知らされていなかった。ペレストロイカ後、その存在はおおやけになった。  NF0561で0CB。  この暗号の意味するところは、スペイン語で「ランパブ デ・ララパルーザ」。「会計で大爆発」という意味だ。どうやら5Kgのプラスチック爆弾が使われたようだ。最近、中東のゲリラ組織が資金集めのために横流しをしている噂を思い出す。  たばこに火をつけ、紫煙を吐出す。ダンプと呼ばれる暗号の解読には根気と度胸がいる。最終的には、解読者のクリエイティブが要求される。要するに「雰囲気」だ。車の走る音が耳朶にこびりつく。私はねばついた笑いを浮かべた。長い夜になりそうだ・・・。  暗号の解読を終えると、黒幕らしき人物が浮かび上がった。たいした人物ではない。生かすか、殺すか。再びねばついた笑いが浮かぶ。私は後者を選択すると、ゆっくりと紫煙を吐出した。マシンルームにヒットマンの要請を出すべく電話をする。 「緊急でコンパイルを頼む。」 冷徹な声が返ってくる、 「分かった。すぐに実行する。」 再びたばこに火をつける。紫煙の先には、夜のとばりがあるだけだ。急速な睡魔が襲ってきたが、まだ寝ることはできない。私は深々と紫煙を吸いこみ、ゆっくりと吐き出した。  静寂に包まれた4Fフロアー。そのしじまを、電話の音が駆け抜けた。受話器を取る。 「ゴーッ」 マシンルームだ。 「失敗だ。  NF0561で0CB」  臀部の筋肉がビリッと震えた。漏れたらしい。受話器の向こうから、ぐすっとした笑いが聞こえる。  再びダンプを解読する。どうやら、黒幕は二人いたようだ。私は懐から鉄の塊を取り出す。旧ソ連の正式軍用拳銃「トカレフ」だ。  鈍く光る銃口をこめかみに当てると、引き金を引く。薬莢が乾いた音を立てて床に落ちる。  失敗は許されない。  銃口からは白煙が立ち上り、こめかみからはとめどなく血が流れた・・・。 [[上へ>雑   文]] ----

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