小説

アリス・イン・カレイドスピア

  • 著者:最近 出版:星海社FICTIONS
  • 天に浮遊する巨大な大陸“地上(天獄)”。重力に縛られた広大な大地“地底(地獄)”。地上と地底を貫く天地の通路“世界槍”が聳え立つ世界――。魂なき人類“哲学的ゾンビ”たちが住まう地底都市ザドーナと、その哲学的ゾンビを退治すべき“異獣”と見なす地上の北辺帝国は、激烈な交戦状態にあった。互いに空想を撃ち合い、解釈で殴り合う。荒唐無稽な想像力が勝敗を決する改竄戦争の舞台で、一騎当千の“妄想狂”たちの、天地の覇権を懸けた壮絶な“世界の書き換え合戦”が幕を開ける!!
  • 某小説投稿サイトにて『幻想再帰のアリュージョニスト』によって業界(の一部)に衝撃を与えた最近氏の初の商業作品。『幻想再帰のアリュージョニスト』と世界観を共通する本作は、シェアードワールド企画『ゆらぎの神話』を筆頭に「数限りない虚構の引用によって構成されて」いる。
  • その『参照先』は、それこそ太古の昔から語り継がれる神話や人類史に名を刻む古典から、現代のアニメ・漫画、果てはネットに氾濫する個人作品まで及び、そしてそれに留まらない。古典哲学に自然科学に思考実験、都市伝説や民間伝承、ネットの流行り、etc.etc……数多のイメージを押さえつけることなく、圧倒的スケールで纏め上げた本作はれっきとしたオリジナルの作品でありながら、これまで存在したあらゆる物語によるクロスオーバーであるとさえ言える。これがカオスフレアの参考にならずしてなんになるというのか。ストーリーそのものは王道であり、『奇怪な世界観と王道ストーリー』の取り合わせもまたカオスフレア的といえる。
  • まあ、そのような細かいことを考えずとも、330Pに限界を超えて詰め込まれたカオスな戦いはそれだけであなたの想像力を嫌というほど刺激してくれるはずだ。哲学的ゾンビ達が『自然科学(この世界ではそれすら呪術の一種だ!)』によって築き上げた「科学の魔法の入り混じった」(作品世界的に適当な表現ではないがあえてこう記述する)軍団の描写はネフィリムやテオス、あるいはロードモナークの参考に。そして自らの世界観を世界に押し付け自在に改変する『邪視者』たちの力は、コラプサーを始めとする超存在たちの描写に役立つだろう。
  • 炎の邪視者が『アストラルネット』を『炎上』させ、吸血鬼が放つ蝙蝠の群れが軍隊を高度に情報化する。主人公の幼馴染は200人の『脳内彼氏』の軍団を具現化させて使役し、闇妖精のヒロインの羽は、『たっぷりと苺のジャムを塗った蝶の如きパン』! なんともカオスフレア的ではないか。
  • なお、迷言の宝庫でもある。「島よりも壁の方が大手だからな」をシリアスなバトル中に解説役が放つ様は、まさにカオス。

猫とともに去りぬ

  • 著者:ジャンニ・ロダーリ 訳者:関口英子 出版:光文社
  • さあ、考えてみよう。銃を使わないでピアノを使うカウボーイはどう悪に立ち向かう?魚が釣れない釣り人がタイムスリップする理由は?シンデレラの世界がSFだったら?といった、突拍子もない物語が詰まった短編集。著者の物語理論が詰まっている集大成的作品だが、その理論が素晴らしくカオスフレア的。
  • まったく関係のなさそうな二つの要素を一つにするとまったく新しいものができる。物語の中に変なものを入れると違う物語ができる。単語に「非」や「全」といった言葉をつけるとまったく違う言葉になる等がある。周りとトンチキで差をつけたいなら買って損はしないだろう
    • 最初に挙げた物はカオスフレアでも容易に発見できる。代表的なのは日本とSFの富嶽だろう。
  • そして、登場人物が超常現象が起こっても社会的決まりを変に気にする。美酒町の参考にも。

ゲート 自衛隊彼の地で斯く戦えり

  • 著者:柳内たくみ 出版:アルファポリス(全5巻)
  • 20xx年。東京・銀座に忽然と出現した“門”から現れた中世時代の如き軍勢は『帝国』を名乗り、民間人に対する無差別殺戮に及んだ。後に銀座事件と呼ばれるこの騒乱は、皇居を利用した警察・機動隊の民間人避難と籠城、そして自衛隊の出動により帝国軍勢の撃退と“門”の確保で幕辛うじて収束。日本政府は帝国に対する銀座事件の損害賠償と再発防止の為に“門”の向こう側=「特別地域(特地)」への自衛隊の派遣を決定した。特地側の“門”を中心に自衛隊の基地が作られ、実地調査の為に特地の奥へと偵察部隊が出動する。その中の一隊、第3偵察部隊を指揮するのは、銀座事件で皇居利用を立案した功績者にして筋金入りのオタク自衛官、伊丹耀司二等陸尉だった――。
  • 投稿小説サイト「Arcadia」で2006年~2009年に連載されたウェブノベルを元に、商業単行本化されたファンタジー(+現代)小説。所謂「異世界召喚モノ」の系譜ではあるが、個人~組織の範囲で収まる事の多い異世界との接触を国家・社会レベルにまで広げた意欲作である。中世ファンタジー世界の『特地』に派遣された自衛隊が現地の住人と交流し、時に戦う姿は、カオスフレアの根幹の一つである「異世界同士の接触」の光景と重なり、主人公である伊丹二尉がオタクならではの機転と判断力で特地での任務を切り抜けていく辺りもまたカオスフレアにおけるフォーリナーの有り様に通じる所が有ると言えよう。」

ΑΩ―超空想科学怪奇譚

  • 著者:小林 泰三 出版:角川書店
  • 原因不明の旅客機墜落。乗客乗員全滅という凄惨な事故現場より、諸星隼人は腕一本の状態から蘇った。それは真空と磁場と電離体からなる世界より、正体不明の「影」を追って地球に飛来したプラズマ生命体「ガ」によるものだった。隼人の復活を奇跡として活動を活発化させる新興宗教アルファオメガ。あらゆるものを飲み込んで巨大化する竜。世界を覆い尽くさんとする人間もどきレプリカント。人類が破滅の危機が迫る時、隼人の肉体は膨張し、白銀の巨人へと変身していた!
  • 新進気鋭のホラー作家、小林奏三が手がけた超SFハード・アクション。一見してグロテスクな描写に溢れるが、それでも「ガ」による隼人の復活、巨人への変身プロセス、次々に現れる想像を絶する異形の敵との戦いなど、その枕詞に恥じぬ空想科学怪奇な物語が繰り広げられている。
  • わけても興味深いのは《光の巨人》達の「世界」が描かれている事だろう。人類の理解の範疇を完全に超越した彼らの生活描写や、また人間である隼人と交流し、パスを繋げ、共に最終決戦に挑む様などは《光の巨人》のロールプレイの参考にならない筈がない。
  • 加えて、元ネタを知らなくても楽しめるパロディのやり方という意味においても、本作は参考になるだろう。細部に散りばめられた小ネタは、ネタ元がわからなくてもすんなりと読めるように施されている。そもそもからして本編自体が『ウルトラマン』のパロディであるにも関わらず、その描写は『ウルトラマン』頼りではないのだから。
  • まあ、細かいことは脇においておいて、夜の街を舞台に「ゼアッ!」と叫びながら巨人が大怪獣に跳びかかる様に胸を踊らせ、我々の街を脅かす「影」のおぞましい侵略行為に恐れおののき、強敵が「まだ私は変身を二つ残している」だの「貧弱貧弱ゥッ!」と叫ぶのに腹を抱えて笑いながら、物語を楽しんでいただきたい。読み終えた時、あなたは不思議な満足感に浸れる筈だ。

ケルベロス

  • 著者:古橋秀行 出版:メディアワークス文庫
  • 三首四眼五臂六脚、戦場に現れ一軍をも滅ぼすという、これは一匹の怪物の物語である。
  • 不死にして最強の“もう一匹の怪物”覇王ラガンによって国々が蹂躙されていた時代、国境間近の街に三人の半端者が流れ着いた。口八丁の無気力なヒョウ使い。突くべき鐘を持たない巨漢の鐘突き男。亡国の皇姫を自称する薄汚れた小便餓鬼。奇妙な彼らが出会う時、“怪物を殺す怪物”が凄まじい産声をあげる……!
  • 『ブラックロッド』によって鮮烈なデビューを飾り、『シスマゲドン』で妹萌えを明後日の方向に放り投げ、『サムライレンズマン』『デモンベイン外伝』で既存世界の未来を侵略した“鬼才”古橋秀行の最新作。シェアードワールド企画「龍盤七朝」と題し、 秋山 瑞人の『DRAGONBUSTER』と同時にスタートした、中華ファンタジーである。しかしながら特筆すべきは、その凄まじいまでの武侠モノの雰囲気だろう。
  • 怪物としか言いようのない覇王ラガンの想像を絶する強さを手始めに、登場する武侠たちが積み上げてきた攻夫の冴えは武侠をプレイするならば必読であろう。 また重要なガジェットとして登場する《龍の佩玉》の“重さ”や、主役三人がパスをつなげていく様、そしてそのパスが世界へと広がっていく様は、実にカオスフレア的だ。
  • ある種、今現在で最も入手容易かつ読み易い武侠小説であるので、そういったモノに興味があるという人も、是非一度読んでみて頂きたい作品である。


境界線上のホライゾン

  • 著者:川上稔 イラスト:さとやす 出版;メディアワークス電撃文庫
  • 人類が天上から戻った時代。極限環境と化した地球上で唯一の人類生存領域・極東を分割統治する列強各国は、“聖譜”に記録された人類史に従い歴史を再現する事で再び天に到らんとしていた。列強によって極東に引かれた国境線、その上を航行する極東所属の航空都市艦『武蔵』――
  • 武蔵が独立自治領・三河への寄航を控える最中、武蔵アリアダスト教導院の生徒会長“不可能男”葵・トーリは、周囲を巻き込んでパン屋に勤める自動人形の少女P-01sに告白せんと意気込んでいた。しかし、三河が引き起こした事件は世界列強を揺るがし、白日の下に晒された事実が二人を引き裂く。葵は教導院の仲間達と共に、列強に立ち向かう事を決意する。少女を今度こそ救う為に。10年前に誓った夢を、叶える為に。
  • 1997年刊の『パンツァーポリス1935』から(世界時間軸を前後しつつ)十年以上に渡って続く『都市世界』シリーズ最新作。従来の基板世界の上に学園モノ、日本史、世界史、SF、ファンタジー等の要素を盛り込み、クロスオーバー色が最も色濃いシリーズとなっている。
  • ローマ教皇と本多正純が舌戦を繰り広げ、東国最強と西国最強が刃を交える。天動説と地動説を自在に操る魔神ガリレオに、戯曲世界を具現化する眼鏡少女のシェイクスピア。航空戦艦を操るは、艦名を冠したメイド服の自動人形達。野球部主将はバントで魔法攻撃を叩き落し、有翼の魔女は巨大ロボ“武神”とドッグファイトを繰り広げ、陸上部員は八艘飛びで航空艦を飛び越え、商人は財力にモノを言わせて武神の剛力と互角に殴りあう!――種族・歴史・幻想・国家・科学・魔法、ありとあらゆる要素と概念が入り混じるその様は、カオスフレアに負けず劣らずのトンチキ(褒め言葉)っぷり。シリーズ開始に先駆けて、A4版780頁に渡る設定資料が用意されたのもむべなるかな、である。
  • 「ライト」ノベル名義に反して一巻毎のページ数が半端無く、その厚さは電撃文庫の枠を越え既にライトノベル全体での最厚記録の上位ランカーとなっている。シリーズ半ばの巻の時点で前シリーズ『終わりのクロニクル』最終巻のページ数を越え、最新巻では1000頁寸前にまで到達。最早タテ置きで自立するのは当たり前、生半可なブックカバーの庇護を受け付けない、鈍器の域だ。
  • 本編全29冊・番外編3冊+電撃文庫magagine連載の未単行本化番外編『課外授業』+アニメ版BD特典の前日譚全8冊+ウェブ連載中の続編からなるボリュームは「是非一読を」とは気軽に書けないレベルに達しているが……カオスフレアに旧版から付き合い続けている筋金入りのGM/PL諸氏には、是非“挑んで”頂きたく思う。色々な意味で。
    • ところで。金髪巨乳美女とゲーム全般をこよなく愛し、番外編の三分の二を割いて中世時代の食事の解説と製作方法を(写真付で)書き連ねる川上氏は、ハッタリカイザーの二人と物凄く通じる部分が多いと思うのだが。如何か。
  • 2011年・2012年秋には誰もが「正気か」と目と耳を疑ったアニメ化も実現。原作のⅠ上下(※普通のラノベなら4冊分のボリュームです)を枝葉切り押しとしつつⅠクールに纏め上げる力技と、コメンタリー脚本から特典小説までノリノリで書き上げる川上氏の勢いに注目である。

カンピオーネ!

  • 著者:丈月城 イラスト:シコルスキー 出版:集英社スーパーダッシュ文庫→ダッシュエックス文庫
  • 草薙護堂は神殺しである。
  • 人間でありながら神を殺しその権能を簒奪せし魔王、カンピオーネ。最も若く新しいカンピオーネである草薙護堂の騒がしいながらも平穏な生活は、神器ゴルゴネイオンを託されたことから終わりを告げた。再び神と相見える時が来たのだ……
  • 著者が「超必殺技」と呼ぶに相応しい10の化身を持つ東方の神、ウルスラグナの権能。ぶっちゃけその使用制限が厳しすぎる超必殺技“だけ”を持った主人公護堂がいかにして難敵を破るかが本作の見せ所である。その様はクライマックス限定特技や1シナリオ1回特技だけをひたすら取った、対ダスクフレア戦闘特化の聖戦士をするときに非常に参考になるだろう。
  • そして彼に付き従い護る女性陣も本作の魅力のひとつ。自称護堂の愛人である魔術師にして騎士のエリカ、霊視の力を持つ巫女祐理、エリカのライバル魔術師のリリアナにボーイッシュや野生児な剣の巫女祐理といった個性的なメンバーからなる典型的なまでのハーレムパーティである。他にもサブキャラとして20代の美女にしか見えない高齢の魔女ルクレチアや麗しき最強の仙女武侠羅濠教主等等…。それぞれのコロナが何なのか想像するのも楽しいだろう。
  • コラプサーを演じるに当たっても実に参考になる作品である。傲岸不遜、人間のことなど塵芥ほども意識していない超越者たちの描写も見事。
  • 是非一度読んでもらいたい作品である。

ゼロの使い魔

  • 著者:ヤマグチノボル
  • 「あんた、あたしの使い魔になりなさい!!」
  • 平凡な少年、平賀才人の人生は光り輝く鏡に触れた瞬間に一変した。異世界ハルケギニアのトリステイン魔法学園女子生徒、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールによって召喚されてしまったのだ……彼女の「使い魔」として! メイジ=貴族の家柄でありながらも魔法の才能が無い"ゼロの"ルイズに振り回されながら、才人はやがて、彼女と自身、そして世界の秘めた謎へと近付いて行く事になる……
  • 「ツンデレ」ブームを巻き起こした傑作ファンタジーライトノベルである。カオスフレア等でお馴染みの「異世界へ召喚される」という王道に「使い魔として」という一文をくっつけ、主人公である少年の苦労、そして主人とのラブコメをきっちり描きつつ、世界情勢や二人の秘めた謎について進行していく物語は、まさにキャンペーンのシナリオソースとして最適だ。
  • ヒロインであるルイズは、その特殊な才能による鬱屈から「ツンデレ」的な性格を持っているのだが、彼女によって酷使される主人公の姿はフォーリナーの暗部を描いている……と言っても過言ではあるまい。二次創作においてはその部分が大きくフューチャーされている(なにせ『家畜人ヤプー』を組み合わせた同人誌まであるのだ!)事を除いても、いきなり呼び出された挙句、半ば強制的に「勇者/使い魔」扱いされて扱き使われてしまうのだ。リプレイ『世界の卵』で姫子がテオスに捕まった事を鑑みても、この状況を他人事と笑えるフォーリナーは少なかろう。
  • また「魔法の存在する中世封建世界」を(多少設定や登場人物の行動がアレな面があるとはいえ)きっちり描いているのも、オリジンの参考資料としては適切かと思われる。もちろん、オリジンと違ってハルキゲニアには貴族と平民といった身分制度はしっかりあるのだが、本来は存在しないだろう「ゴムの入った下着」やら「黒板とチョーク」やら、蒸気エンジンを開発しても「魔法でやれば良い」と言われる技術者の姿、また「エロ本」が凄まじい価値を持つ一品として扱われるなど、実にカオスフレア的である。
  • ヒロインのルイズは「魔道書を邪剣にした邪剣使い」であり、主人公のサイトは「光翼騎士」、また彼の相棒である魔剣デルフリンガーは《伝説の剣》である為、そういったキャラクターを演じる時のロールプレイの参考にもしていただきたい。

迷宮街クロニクル

  • ①迷宮まで何マイル? ②散る花の残すもの ③夜明け前に闇深く ④青空のもと 道は別れ
  • 著者:林亮介 出版:GA文庫
  • ――京都、迷宮街。ここでは人は簡単に死ぬらしい。
  • 一昨年前に京都を襲った大地震は、意外な副産物をこの街に残した。地下に広がる大迷宮への入り口と、そこから溢れ出る怪物達。自衛隊による掃討作戦に失敗した政府は、迷宮の探索と怪物駆除を一般人の志願者に解放。更に怪物達の身体から得られる稀少化学物質を高額で換金する事を発表した。――それは正に現代のゴールドラッシュ。死亡率14%と云うリスクにすら怯まぬ若者達は、挙って京都に集結した。ある者は一攫千金を夢見て、またある者は迷宮探索に生き甲斐を求めて、そしてまたある者は…… これは現代に出現した迷宮街・京都に集う者達の、生死隣り合わせの群像劇である。
  • 「もし、現代日本に怪物の潜む地下迷宮が出現したら?」――そんな発想の元に書かれたWeb小説『和風Wizardry純情派』。Web連載から5年を経て、大幅な加筆修正を加えて商業書籍化されたのが本書である。商業化に際しタイトルから名こそ外れたが、本作の根幹を為すのがあの名作RPG『ウィザードリィ』である事には変わりない。商店街に冒険者の酒場ならぬ居酒屋と簡易宿泊所とコンビニが軒を連ねていたり、冒険者達がインターネットで情報を発信したり、本業を持ちつつ休日に迷宮に挑む“週末冒険者”が存在する辺りは、現代日本が舞台ならではだろう。
  • Web連載当時、筆者は登場人物の生死をダイスで決めていた。故に主人公枠であろうが脇役であろうが、フラグを立てていようがいまいが、作中での死の可能性は均等に待ち構えている(そして京都にはカント寺院は存在しない!)。その事が物語に緊張感を持たせていると共に、群像劇としての重さと彩りを生み出している。ゲームをモチーフとしていながら登場人物の描写が所謂『ゲーム的』と一括り出来ないのも、その辺りが大きな要因だろう。
  • 現代の京都の地下に広がる大迷宮は、同じくウィザードリィを原典とするニューマンハッタンと試練場に重ねる事が出来る。しかしそれ以上に注目したいのは、「ごく普通の日本の若者が、命を賭けた冒険に赴く」と云う点だ。日常の生活から非日常の冒険に――それは正にオリジンに降り立ったフォーリナーも同じだ。無論、迷宮街の若者達は選ばれた勇者でも無ければフレアも操れない。だが、非日常の世界で己の力を頼りに戦い、生死隣り合わせの状況に晒され、それでも生き延びんとする姿は、現代人のメンタリティを持つフォーリナーを演じる上で大いに参考になるのではないだろうか?
  • とりあえず、ヘルメットは買っておこう。話はそれからだ。

マザーズ・タワー

  • 著者:吉田親司 出版:ハヤカワSFシリーズJコレクション
  • 西暦二〇三八年、スリランカ―インド間を結ぶ巨橋を拠点とする《マザーズ教団》は、難病の子供達の末期医療に従事していた。教団代表の葵飛巫子はインド州軍の襲撃を予測し、巨橋を崩壊させて教団ごと避難する決意をする。攻撃開始の日、それぞれの理由で巨橋に居合わせた4人の男達は、飛巫子の素顔と、人類の未来を左右する真の目的を知った。医学、財産、電脳、怪力――それぞれの要素に恵まれた男達は、彼女の為命と才覚の全てを賭け、太陽系最大の建造物・軌道エレベータの建造に挑む!
  • 登場人物は個性溢れるという表現では言い表せない濃いメンバーばかり。脳医学の世界的権威にして凄腕の潜入捜査官、そして神懸かり的な女装の達人ノートン、仏に帰依した僧侶にしてスキューバダイビングとロッククライミングを極め、そして電脳の世界を支配する天才ハッカーナンディ、凄腕トレーダーにして天才弁護士、そして巨万の富を注ぎ込んで作り上げたハイテク密輸船の船長でもある飛鷹、南極で200人以上の子供をたった一人で救助した心優しき英雄にして、全長数キロの巨橋を支えるほどの剛腕と卓越した戦闘スキルで一個師団すらも壊滅させる戦闘サイボーグジェルジンスキー。そして、彼らが命をかけて守ると誓った美貌の少女飛巫女。
  • 何と言う登場人物、何と言うカオスなのか。生まれた場所も時も異なる男達が共闘する様はまさにカオスフレアそのものである。普通の作品なら一人が持つ一つの要素だけでも十分主人公を張れるキャラクター達。これでもかっ!と言うほどミームとブランチをマルチしたその姿はカオスフレアをする際の参考にぴったりだ。その戦いの果てにあるものを、是非その目で確かめて頂きたい。

ドラキュラ紀元

  • 著者:キム・ニューマン 出版:創元推理文庫
  • ヘルシング教授敗れる!ドラキュラ伯爵は女王との婚姻に成功し、遂に英国を支配した。そんな中、霧の都ロンドンにて吸血鬼娼婦ばかりを狙った連続殺人事件が発生。マイクロフト・ホームズの命令を受けて調査に乗り出したのは諜報機関ディオゲネス・クラブの敏腕スパイ、チャールズ・ボールガード。彼は四世紀を生き延びた永遠の美少女、吸血鬼ジュヌヴィエーヴと共に<銀ナイフ>或いは切り裂きジャックと呼ばれる殺人鬼を追いかける。事件の背後に存在するのはモリアーティ教授か、モロー博士か、はたまた……虚実入り乱れる一大群像劇!
  • 「ドラキュラによって支配された英国」という舞台設定を用意する事で、19世紀を題材にした各種小説映画演劇作品の登場人物を集合させる事に成功した傑作クロスオーバーである。それだけでも文庫一冊に相当するだろう巻末の登場人物辞典も必見。知らなくても楽しめて、知っていれば更に面白い。これぞクロスオーバーのあるべく姿であろう。
  • 尚続編の『ドラキュラ戦記』では、第一次世界大戦を舞台に連合国のラジオドラマ撃墜王部隊VSレッドバロン率いる史実のドイツエース部隊、そしてそれを見守るエドガー・アラン・ポーという夢の様な光景が繰り広げられる。そして第三作『ドラキュラ崩御』では20世紀のローマを舞台に、若き英国諜報員へイミッシュ・ボンド(!)が映画の登場人物、俳優の間を潜り抜けるミステリ・サスペンスに一変!
  • 因みにシリーズ通してのヒロイン、吸血鬼ジュヌヴィエーヴは、同著者がジャック・ヨーヴィル名義で発表したウォーハンマーの小説作品『ドラッケンフェルズ』にも登場している。近年になって復刻されたので、是非手に取って頂きたい。

ドラグネット・ミラージュ

  • 竹書房ゼータ文庫/著者:きぬたさとし(原案:賀東招二) 画:篠房六朗
  • 小学館ガガガ文庫/著者:賀東招二 画:村田蓮爾
  • 15年前、西太平洋上に突如として出現したゲートは、妖精や魔物が存在する剣と魔法の世界『レト・セマーニ』へと通じていた。現在、ゲート同時に出現したカリアエナ島サンテレサ市は地球側の玄関口として機能している。両世界の移民で賑わうこの街は、その一方で魔法的物品や近代兵器、民族対立と文化衝突の介在する混沌と化していた。
  • 同僚を殺した呪術師と、誘拐された妖精を巡る事件を追っていた敏腕刑事ケイ・マトバは、同じく妖精を連れ戻す使命を帯びた騎士との合同捜査を命じられる。ところが現れたのは美少女騎士ティラナ・エクセディリカであった。習慣と文化の違いから衝突を繰り返しながら、二人は真実を探して走り出す。
  • きぬたさとし氏こと『フルメタル・パニック!』の賀東招二による、刑事ドラマ――というより、どう見てもカオスフレアな小説である。サンテレサ市は正しくニューマンハッタンそのものだし、神と正義と名誉の為に突貫するティラナと、現代社会のやり方で捜査を進めようとするケイの対立(「怪しい奴を片端から捕らえれば……」「こっちにゃ基本的人権って神様がいるんだよ!」)のやり取りなども、実にカオスフレア的だ。
  • またケイが「彼女は彼女達の『科学』に基づいて調査している」という事実を認め、ティラナが「この銃にはラーテナ(フレア)が宿っている!」と驚き、相互理解を深め、共に事件解決にあたる展開は、カオスフレアの参考作品としても、純粋な娯楽小説としても、太鼓判を押してお勧めしたい。
  • ゼータ文庫の休止により2巻にて終了・絶版となっていたが、2009年11月に小学館ガガガ文庫より『コップクラフト DRAGNET MIRAGE RELOADED』として再刊行され、2011年には新作となる第3巻も発売された。挿絵が篠房氏から村田蓮爾氏にバトンタッチし、ティラナの年齢を含め若干表現がマイルドになった辺りは評価が分かれる所だが、ここは素直に復活を祝いたい。

召喚教師リアルバウトハイスクール

  • 著者:雑賀礼史 出版;富士見ファンタジア文庫
  • 1996年東京都板橋区にある大門高校。この学校には生徒間の揉め事を当事者同士の戦いによって解決する「Kファイト」という制度があった。5月にその高校へと赴任してきた英語教師南雲慶一郎。大学卒業後世界各地を放浪した凄腕の武術家であり「神威の拳」という仙術闘法の使い手でもある彼は、Kファイト制度の切っ掛けになったケンカ番長にして神威の拳の使い手・草なぎ静馬を「調教」するために校長によって招聘されたのだった。しかし彼は一方で「異世界ソルバニアで召喚獣として怪物退治をしている」という誰にも言えない秘密を抱えていた。そんな彼の秘密偶然知ってしまった少女御剣涼子。彼女は草なぎ静馬を唯一武力によって倒した生徒であり木刀を使って戦う「サムライガール」であった。そして日本に帰ってきた慶一郎は、かつて唯一心から安らいでいられた母のような女性の忘れ形見・鬼塚美雪と出会う。そんな彼らの出会いは、やがて様々な騒動を引き起こしていく。
  • 1996年から2010年まで発表された「リアルファイト・ファンタジー」小説。本編全19巻、番外編・短編集全5巻、御剣涼子を主役とした前日弾アーリー・デイズ編全3巻からなる。
  • 装着者/武侠/クライムファイターであり悪人を見つけるとアニメのお面を被って《コスチュームヒーロー》となり容赦なく《ジョイントブレーク(手足)》などで容赦なく再起不能にし、異世界で怪物と戦う時は装着者の力で根源属性の攻撃をたたきこんで粉砕し、果てはスパイ衛星をも撃墜する作中の人物曰く「人間サイズの怪獣」な慶一郎(おまけにきっかけは強制されたものだったが彼を熱愛する香港人の嫁(武狭)もいる)、装着者/フィストウォーリアー/番長/アスリートで戦いをスポーツとしてとらえて存分に楽しみ、慶一郎との戦いで装着者の力の効率的な使い方に気づき必殺技《神気天翔》を開発し、情報収集にたけた相方をもつどんなことがあろうと前へ進む静馬、序盤で剣術の師に出会い剣の腕を磨き、後半では特殊感覚を身につけサポート向きだが怪物と戦う力を得た剣客/協力者の涼子といったようにタイプの違う濃い3人の主人公たち。逃げ脚とかく乱・変装術にたけ慶一郎を巧みに利用するアメリカ忍者、慶一郎との敗戦をきっかけに魔力によって再生し再戦を図る超巨大な装着者/コーポレートな悪の総帥、静馬とストリートファイトを繰り広げるフィストウォーリアーたちといったように様々な個性豊かな対戦相手達との熱いバトル。学校の人物もどう考えても黒幕そうな校長や筋肉フェチの保健教師、乗りのいいKファイトレポーターなど人物紹介だけで結構カオスフレア的だったりする。
  • またKファイトでは「戦いを申し込まれた方が試合形式を決められる」というルールのため、様々な種目が競技となる。アーリー・デイズ編3巻ではこのルールの下「草なぎ静馬を打ち負かせるジャンルの達人な少女」たちを集めた「新撰組」と静馬との「武力だけでない真剣勝負」というアスリート同士の争いが描かれていたりする。
  • この作品で語られる「神威の拳」、その本質はカオスフレアという存在を考えさせるものである。
  • また異世界「ソルバニア」は、後半で実は未来で「魔法」を開発した超人類にして魔王(リアリティハッカー/エンシェント)がリアリティハッカー能力を使って「完全なる世界」を作り崩壊に瀕した世界を再編するために虚数空間のコロニー・そしてその中の「無限に情報を記録できる魔道書」内で未来人たちの総意に基づき「完全なる世界」を創生するためのシミュレーター空間であることが判明。そして慶一郎を召喚していたリアリティハッカー/マシンライフの少女型セキュリティプログラム(《無言のヴェール》持ち)が大門高校に来たことで、高校はカオスな世界に・・・。
  • そしてこの作品最大のテーマの一つは、慶一郎と美雪の救済である。親に望まれずに生まれ孤独に育ち、やっと手にした安らぎも自らの過ちとそこから来る罪悪感から逃亡してしまい、生きているだけでいい・何も責任を負いたくない・自分からは何かをしようとは思わないと諦観してしまっている慶一郎。両親の死・そして自分だけが知る最悪なその真相から生に絶望し、自分を守ると誓ってくれた慶一郎を慕うが故に罪から来るジレンマに苦しんだあげく、終盤で魔王との契約で強大な力を手にし元々あった顕現者/巫女としての力を増大させ半ばダスクフレアと化してしまった美雪。この物語は南雲慶一郎という男が自分にパスがあると気付き聖戦士としての自覚を持って美雪を救うまでの物語とも言える。
  • リオフレード学院のノリやクライムファイターのあり方・フィストウォーリアーのストリートバトル、リアリティハッカーや侍、シングルとマルチの違いなどカオスフレアのキャラのネタが多数ある。ぜひ読んでみてほしい。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2020年03月11日 12:52
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。