第十三章
「おーい」
そんな素っ気ない声が聞こえた。今自分は目を開けていない。
「聞こえてるかー?起きろー」
そんな声も聞こえる。そしてそれらが何度も続く。
いい加減聞き覚えがあるその声に、嫌気がさして起き上がろうとした。しかし起きない力が入らない。
マルクルは左手で体を起こして起き上がる癖があったためだ。そして力無くそのまま転がってバタンと大きな音と共にベッドから転げ落ちた。
「ぐぉ……てぇ…!!」
軽い衝撃だが思わず体中に激痛が走り、薄くだが目が反射的に開く。目も熱い。
「おいおい、けが人がそんなに動いちゃあダメでしょうが」
またあの声だ。目をよく開いて見ると、子供だった。
「――ミニッツ……か」
「そうだよ、エンジニアンのミニッツだよ。ったく心配ばっかりさせて……うちの奴らはダメな奴らばっかりだよ」
そう言うと、一回り程大きいマルクルの体を軽々持ち上げてベッドに投げ込んだ。ストンと言う音と、バキッとか、ゴキッと言う音も同時にこの病室に響く。砕けている骨が擦れたり、骨が変な方向に曲がったりして激痛が走り、マルクルは叫びそうになったが、両手で口を押さえて必死に堪えた。
「そこらへんにしておけ。一応、重症患者だ」
汗ばむマルクルをいつもの表情で見つめ、ブリッジ。彼も同じく包帯やら点滴やら施されていた。
「これは仕置きだよ、本当は電流でも流して失神でもさせようかと思った」
マルクルは、今の一言が嘘であってほしいと、ほんの少し願って少しばかり深呼吸。そして腕で大粒の汗を一拭き。
少し沈黙の時が流れる。ブリッジは上を向いて、ミニッツは暇そうに足でコツンコツンとコンクリートを蹴っていた。
するとマルクルが起き上がって口を開く。
「俺……どうなっていた?」
その声は少し震えていた。
「別に……とりあえず、いかれていた」
静かだが、意地悪そうにミニッツが答える。「そうか」と苦笑いのマルクル。しばらく会話は続いた。
「あの工場は?」
「一部抜かしてみんな大破していたよ。ボスは容赦ないねぇ」
「怒ってる?」
「もちろん」
この会話の直後、ミニッツにグッと睨み付けられた。マルクルはその目を見ないように少し横になる。だいぶみんなに迷惑をかけてしまったようだ。
「一部ってなんだ?ガキ、まだ残っている場所なんてあったのか?」
ブリッジである。相変わらず、ミニッツの「ガキじゃない」から返答は始まった。
「後で言うよ。今ここで資料も無い常態で言っても、ここのばかどもにはわかんなそうだし。特にそこは大馬鹿だから」
マルクルに指を指して呟く。
それに、「俺とあいつを一緒にするな」とブリッジ。マルクルは苦笑いをするだけだ。
そして「じゃあお大事に」とミニッツが医療室の扉を開けた時だった。
「ミニッツ」
マルクルが再度ベッドから起き上がり呼び止めた。
それにミニッツが反射的に振り返る。それと同時に、茶色の髪がフワッと揺れた。
「何?」
「あ、えっと…」
少し顔を下に向けて、すぐに前を向く。そして
「すまない…な」
深々と頭を下げた。そのマルクルの姿を見て、ミニッツは少し鼻で笑い
「しばらく許してやらないから」
そう告げて医療室を後にする。それはマルクルにとってほんの少し、荷が軽くなったような感じだった。
そんな素っ気ない声が聞こえた。今自分は目を開けていない。
「聞こえてるかー?起きろー」
そんな声も聞こえる。そしてそれらが何度も続く。
いい加減聞き覚えがあるその声に、嫌気がさして起き上がろうとした。しかし起きない力が入らない。
マルクルは左手で体を起こして起き上がる癖があったためだ。そして力無くそのまま転がってバタンと大きな音と共にベッドから転げ落ちた。
「ぐぉ……てぇ…!!」
軽い衝撃だが思わず体中に激痛が走り、薄くだが目が反射的に開く。目も熱い。
「おいおい、けが人がそんなに動いちゃあダメでしょうが」
またあの声だ。目をよく開いて見ると、子供だった。
「――ミニッツ……か」
「そうだよ、エンジニアンのミニッツだよ。ったく心配ばっかりさせて……うちの奴らはダメな奴らばっかりだよ」
そう言うと、一回り程大きいマルクルの体を軽々持ち上げてベッドに投げ込んだ。ストンと言う音と、バキッとか、ゴキッと言う音も同時にこの病室に響く。砕けている骨が擦れたり、骨が変な方向に曲がったりして激痛が走り、マルクルは叫びそうになったが、両手で口を押さえて必死に堪えた。
「そこらへんにしておけ。一応、重症患者だ」
汗ばむマルクルをいつもの表情で見つめ、ブリッジ。彼も同じく包帯やら点滴やら施されていた。
「これは仕置きだよ、本当は電流でも流して失神でもさせようかと思った」
マルクルは、今の一言が嘘であってほしいと、ほんの少し願って少しばかり深呼吸。そして腕で大粒の汗を一拭き。
少し沈黙の時が流れる。ブリッジは上を向いて、ミニッツは暇そうに足でコツンコツンとコンクリートを蹴っていた。
するとマルクルが起き上がって口を開く。
「俺……どうなっていた?」
その声は少し震えていた。
「別に……とりあえず、いかれていた」
静かだが、意地悪そうにミニッツが答える。「そうか」と苦笑いのマルクル。しばらく会話は続いた。
「あの工場は?」
「一部抜かしてみんな大破していたよ。ボスは容赦ないねぇ」
「怒ってる?」
「もちろん」
この会話の直後、ミニッツにグッと睨み付けられた。マルクルはその目を見ないように少し横になる。だいぶみんなに迷惑をかけてしまったようだ。
「一部ってなんだ?ガキ、まだ残っている場所なんてあったのか?」
ブリッジである。相変わらず、ミニッツの「ガキじゃない」から返答は始まった。
「後で言うよ。今ここで資料も無い常態で言っても、ここのばかどもにはわかんなそうだし。特にそこは大馬鹿だから」
マルクルに指を指して呟く。
それに、「俺とあいつを一緒にするな」とブリッジ。マルクルは苦笑いをするだけだ。
そして「じゃあお大事に」とミニッツが医療室の扉を開けた時だった。
「ミニッツ」
マルクルが再度ベッドから起き上がり呼び止めた。
それにミニッツが反射的に振り返る。それと同時に、茶色の髪がフワッと揺れた。
「何?」
「あ、えっと…」
少し顔を下に向けて、すぐに前を向く。そして
「すまない…な」
深々と頭を下げた。そのマルクルの姿を見て、ミニッツは少し鼻で笑い
「しばらく許してやらないから」
そう告げて医療室を後にする。それはマルクルにとってほんの少し、荷が軽くなったような感じだった。
こうして、三つほど月がたった。
※
「物資足りない……」
そんな事をぼやくのは――やはりミニッツ。
彼はここの物資計算やら、人件費、錆びておんぼろなこの部屋の改築費用など、全て計算しないといけない。大変なことである。
「貿易国まで行くのか?」
そう聞くと同時に、ブリッジが暇そうに欠伸をこいた。
「あそこ……あんまり行きたくない」
「じゃあそこらへんの士卒に行かせるか」
それを言うと、ミニッツは何も言わずに首を縦に振るだけだ。だがそこで悪い知らせ。
「うちの兵士さん達はみんな休暇取っちゃっているから、働いているのは俺達だけ」
声の主は、ガチャガチャと片手で大口径のアサルトライフルを分解してすぐに組み立てる――そんなことを繰り返している、暇そうなマルクル。
傷だらけの二人はすっかり治っていて、通常の三倍の早さだとか。人間とは思えない治癒能力だ。
「ボス達働いてないでしょ」
片手でタイピングをしながら、振り返るミニッツ。すると
「そう言えば“あれ”の資料は見つかりました?」
ガサゴソと埃が舞いつつある本棚を調べているエリウス。
「名前は『神木』だっけ?あれの資料は一切見つからない」
それについては、もうだいぶ前に諦めていたようだ。すると
「知り合いに、昔話と、おかしな物を良く知っているじいさんがいるぞ」
それの話に、「どこに?」とライフルにばねを組み込んでいるマルクルが聞く。
「貿易国」
それを聞くとミニッツは生涯なさそうな、大きく、深いため息をついた。
そんな事をぼやくのは――やはりミニッツ。
彼はここの物資計算やら、人件費、錆びておんぼろなこの部屋の改築費用など、全て計算しないといけない。大変なことである。
「貿易国まで行くのか?」
そう聞くと同時に、ブリッジが暇そうに欠伸をこいた。
「あそこ……あんまり行きたくない」
「じゃあそこらへんの士卒に行かせるか」
それを言うと、ミニッツは何も言わずに首を縦に振るだけだ。だがそこで悪い知らせ。
「うちの兵士さん達はみんな休暇取っちゃっているから、働いているのは俺達だけ」
声の主は、ガチャガチャと片手で大口径のアサルトライフルを分解してすぐに組み立てる――そんなことを繰り返している、暇そうなマルクル。
傷だらけの二人はすっかり治っていて、通常の三倍の早さだとか。人間とは思えない治癒能力だ。
「ボス達働いてないでしょ」
片手でタイピングをしながら、振り返るミニッツ。すると
「そう言えば“あれ”の資料は見つかりました?」
ガサゴソと埃が舞いつつある本棚を調べているエリウス。
「名前は『神木』だっけ?あれの資料は一切見つからない」
それについては、もうだいぶ前に諦めていたようだ。すると
「知り合いに、昔話と、おかしな物を良く知っているじいさんがいるぞ」
それの話に、「どこに?」とライフルにばねを組み込んでいるマルクルが聞く。
「貿易国」
それを聞くとミニッツは生涯なさそうな、大きく、深いため息をついた。
※
下は色々な岩でできていて、工場が多いこの国。
蒸気がシュゥゥとうるさく鳴り響き、耳を劈く。そして何より熱い、工場から排出される熱だ。
ここには住宅街は無く、工場に家を構えることが多い。これなら移動に労力が要らないし、費用も少ないとか。だが、買い物とかはどうなる?それはというと、配達してもらうらしい。
ただでさえ、仕事で運動してないのに配達とは――。同じ人間として少々会いにくい点がある。
「用が済んだらさっさと帰るからね」
みんなに言い聞かせるミニッツ。
『神木』については、オロードと言う人物が知っているらしい。工場でできた物はほとんど私蔵して、コレクションとして扱っている、誰も近寄ろうとしない、おかしな爺さんだとか。
どうやって稼ぎを?と聞くと、微量に売るものが大変な額で売れて、大儲けしているらしい。しかしその稼ぎは全て、次の開発費になる。仕事に全てをかけている爺さんだ。面白い。
道中ミニッツは「買い物行きたい」とか「帰りたい」とか言っていたが、彼がいなくては分析が出来ない――というより記憶する係がいなくなる。だからマルクルが数回なだめてあげた。
そしてオロードの家の前に差し掛かった時である。
「おい」
そう呟くと同時に、ブリッジがマルクルの左腕を引っ張った。次の瞬間針が落ちてきて、マルクルに刺さる筈だった針が下の岩に刺さる。間一髪だ。
「ブリッジが必要以上に用心深くて助かったぁ…」
ミニッツがそう言うが、ブリッジの目には色が無い。まだ敵か障害がある証拠。
「わかってますよ、“総幹部長殿”」
「じゃあさっさとやれ」
ブリッジは敵が来そうな方向を向いてそう告げた。
「だから嫌だったんだよ」と、ぼやくミニッツだったが、真面目な目になる。そして続けざまに
「そっちの罠は攻略済みだよ――ネズミ君達~!」
そう叫んだ。しかし前に黒装束で、長剣を持っている輩が飛びかかっていた。これが敵。
と、次の瞬間、何処から来たのだろう?それを追いかけるように火花を散らして、光る丸い物体が黒装束の者達に突っ込んで行った。そしてそれに気づかないまま、見事に命中。そしてネズミ花火みたいなものは、爆発しそうになる。
案の定、綺麗な黒装束に爆発して火がついた。重い衝撃と、もの凄い熱さで火達磨(ひだるま)になり、見事な音を出して落ちていった。そして衝撃を関係なくして、黒装束の者達はゴロゴロと火を消そうと必死に転がる。
「お~しこれでOKだよ」
ミニッツがそう言った時だった。
「これこれ、殺したら罰金じゃぞ?」
けちな事を言って……そんな事を思って振り向く一同。
「ロード爺か」
ブリッジが口をパカッと開けた。
ミニッツはしかめ面をつくっている。そして嫌と言わんばかりに呟いた。
「やっぱジジイかよ」
蒸気がシュゥゥとうるさく鳴り響き、耳を劈く。そして何より熱い、工場から排出される熱だ。
ここには住宅街は無く、工場に家を構えることが多い。これなら移動に労力が要らないし、費用も少ないとか。だが、買い物とかはどうなる?それはというと、配達してもらうらしい。
ただでさえ、仕事で運動してないのに配達とは――。同じ人間として少々会いにくい点がある。
「用が済んだらさっさと帰るからね」
みんなに言い聞かせるミニッツ。
『神木』については、オロードと言う人物が知っているらしい。工場でできた物はほとんど私蔵して、コレクションとして扱っている、誰も近寄ろうとしない、おかしな爺さんだとか。
どうやって稼ぎを?と聞くと、微量に売るものが大変な額で売れて、大儲けしているらしい。しかしその稼ぎは全て、次の開発費になる。仕事に全てをかけている爺さんだ。面白い。
道中ミニッツは「買い物行きたい」とか「帰りたい」とか言っていたが、彼がいなくては分析が出来ない――というより記憶する係がいなくなる。だからマルクルが数回なだめてあげた。
そしてオロードの家の前に差し掛かった時である。
「おい」
そう呟くと同時に、ブリッジがマルクルの左腕を引っ張った。次の瞬間針が落ちてきて、マルクルに刺さる筈だった針が下の岩に刺さる。間一髪だ。
「ブリッジが必要以上に用心深くて助かったぁ…」
ミニッツがそう言うが、ブリッジの目には色が無い。まだ敵か障害がある証拠。
「わかってますよ、“総幹部長殿”」
「じゃあさっさとやれ」
ブリッジは敵が来そうな方向を向いてそう告げた。
「だから嫌だったんだよ」と、ぼやくミニッツだったが、真面目な目になる。そして続けざまに
「そっちの罠は攻略済みだよ――ネズミ君達~!」
そう叫んだ。しかし前に黒装束で、長剣を持っている輩が飛びかかっていた。これが敵。
と、次の瞬間、何処から来たのだろう?それを追いかけるように火花を散らして、光る丸い物体が黒装束の者達に突っ込んで行った。そしてそれに気づかないまま、見事に命中。そしてネズミ花火みたいなものは、爆発しそうになる。
案の定、綺麗な黒装束に爆発して火がついた。重い衝撃と、もの凄い熱さで火達磨(ひだるま)になり、見事な音を出して落ちていった。そして衝撃を関係なくして、黒装束の者達はゴロゴロと火を消そうと必死に転がる。
「お~しこれでOKだよ」
ミニッツがそう言った時だった。
「これこれ、殺したら罰金じゃぞ?」
けちな事を言って……そんな事を思って振り向く一同。
「ロード爺か」
ブリッジが口をパカッと開けた。
ミニッツはしかめ面をつくっている。そして嫌と言わんばかりに呟いた。
「やっぱジジイかよ」
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