クェスカイゼスの開発



正式名称 クェスカイゼス
種別 騎士専用特殊I=D
全長 13m(頭頂高11m)
全備重量 89t(本体重量42t)
パイロット 1名
推進機構 引力(重力)制御による慣性誘導
最大出力 不明(強力なリミッターがかかっており、解除後の出力は判らない)
装甲材質 不明(量産型については既存のI=Dに順ずる)
開発者 不明
武装 専用ロングソード×1、専用バックラー×1、内臓ビームキャノン×2


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騎士機


 それは帝國騎士の象徴であり、騎士たるものの信念の体現である。
 その姿は優美にして力強く、豪奢でありながら無骨さも感じさせるものであり、軍勢の旗頭とするに相応しい。
 装飾の施された甲冑型の装甲、無骨な盾、そして巨大な剣。
 剣持つものの憧れ、それが、帝國軍の騎士機、クェスカイゼスだ。

その所以


 クェスカイゼスは宰相府の独自I=Dである。
 独自I=Dといっても、実際には発掘兵器と言うべきものであり、現行のものを超えた技術、所謂TLOが随所に用いられている点が大きな特徴だ。
 事実、大本の1機は遺跡より発掘された文字通りの発掘兵器であり、一説によれば全てのI=Dの原型となったものであるという。
 その話の真偽は定かではないが、もし本当であるのならば興味深い。I=D史に多大な影響を及ぼした機体だといえるからだ。

(背面図:マント有/無)

白兵騎クェスカイゼス


 その開発コンセプトについての資料は残っていないが、少なくとも現時点での機体スペックデータや運用思想は、かなり偏ったものになっている。
 本機は近距離・白兵戦用の機体であり、とにかく『接近して斬る』事を追求した機体である。
 華美ではあるが分厚く重量のある装甲に身を包み、更にバックラータイプのシールドを標準装備しているところからも、その偏りようは見て取れるだろう。

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#主武装である専用ロングソードと、専用バックラー。バックラーは左腕をすっぽり包む形状をしており、腕全体を使って敵の攻撃を受け流す事を意図していると思われる#
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 よって主武装は両肩に設置された固定型のビーム砲ではなく、腰に取り付けられたI=D用ロングソードの方であり、中・長距離戦闘は可能ではあってもメインではない。

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#腰にマウントされた専用ロングソード。重量はかなりのものだが、重力制御による四肢駆動へのバックアップもあり、取り回しに難はない#
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 取り回しに難のある固定型のビーム砲を使っているのも、砲撃戦はやっても射撃戦をする意図がないことの現われだった。

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#肩部固定式ビームキャノン。砲撃時のみ発射口を開放する#
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 回避は狙わず、盾と装甲で敵弾を防ぎながら突撃し、接近したら後はロングソードで斬り伏せる。それが本機の戦い方の一番であり、全てだとも言っていい。
 重装甲ゆえに速度に優れた機体ではないながら、突進力の高さには目を見張るものがあるというのも、それを裏付ける証拠の一つだ。

重力制御による飛行と、空中におけるI=D”らしさ”

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#機体各所にある結晶体では、引力の制御を担っている#
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 そして本機の最大の特徴は、その飛行能力にある。
 従来の帝國軍I=Dにも飛行能力を持つ機体は多いが、そのほぼ全てはジェットエンジンによる飛行である。
 いわばI=Dというよりは航空機として空を飛んでいるのであり、格闘戦もできる航空機という方が近いのであって、I=D”らしい”戦い方というものはほぼできていない。
 それに対し、本機の飛行方法は重力制御である。
 内燃機関による推進力の確保とは根本的に異なり、進行方向に合わせた引力ベクトルの調節によって推進力を獲得し、それによって飛行する。
 機体各所の制御ユニットによって、供給される出力(乱暴に言えば重力制御力)が目的に応じて再配分され、配分率の高い箇所が強い引力を発揮することで、機体全体が引っ張られる形である。
(一般的な例え方をするならば、水中に潜っている人が、空気を入れた袋を体の各所に貼り付ける様、という所だろう。頭に空気袋を全て集めれば頭が浮き、足に全てつければ足から浮く。全身にくまなく配分すれば、全身はその姿勢をたもったまま浮こうとする)
 慣性や星からの重力の影響を受けることはジェットエンジンと何ら変わらないし、最大速度では劣る部分もあるが、取りうる機動の選択肢においては比類なき性能を発揮し、空中における運動性能において、本機を互する機体は存在しない程である。
 本機の飛行はまさに、I=D”らしい”、人型兵器としての自由度に満ちた飛行なのだ。

 そもそも、アイドレス界においては重力制御という技術そのものが未知のものであり、それだけでも本機の特異性がどれほどの物かが判るだろう。
 あらゆる物理域を問わずに効力を発揮するこの機構はまさしくTLOと呼ぶべきもので、その解析については、現在に至っても一部が終了したのみである。
 当然、未知の技術を使用する事について危ぶむ声もないではないが、それを圧して尚使用するだけの価値があるのも確かなのだ。

意図的なデチューンとその真意


 重力制御は機体操縦や剣戟戦闘の補助にも使われており、出力次第では防御フィールドを形成できる事が判っているし、重力波そのものを敵にたたきつける事で破壊するといった攻撃方法も成立しうると想定されている。
 自然界に存在する力の中において、重力という力そのものはそう強いものではない(むしろ弱い。星一つの質量をもってやっと1Gである)が、その有用性はやはり高く、使い方次第では戦闘の概念そのものを塗り替える可能性すらあった。

 だが、本機にはそれら、重力制御を主軸とした武装の類は一切搭載されていない。
 飛行能力及び空戦性能の最低減の確保と機体運動制御、パイロット保護に、制限のかかった出力を配分し、必要最低限のエネルギーをやりくりして使っている状態である。
 出力そのものに制限が掛かっているために飛行能力も低下しており、複雑な機動を行えば行うほど速度が低下するし、最大速度が出せるのは1方向に直進した場合のみだ。(ただし進行方向は選ばないため、柔軟な機動性という意味合いにおいて優位を失っているわけではない)

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#マントなし。スマートな体型ながら、装甲はかなり厚い事がわかる#
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 何故わざわざそんな制限を、といえば。それは当然、強すぎる力を恐れたためである。
 TLOを危惧する勢力の存在という問題も当然あるし、強力な力の普遍化には深刻な危険が隠れている。
 例え重力制御があらゆる可能性を内包していようと、それを野放図に使う事は、世界にとって決してプラスにはならない。
 そう考えられる事は、別に不思議な事でもなんでもない。

”選びし者”のための剣


 TLOに対する制限については、操縦系の思想にも現れている。

 先述のとおり、本機は機体の重力制御出力を配分することによって飛行し、またその配分によって機体動作を補助するという性質を持つ。
 そのため当然、出力配分にはかなり高度な演算能力を必要とする。行う行動ごとに出力配分を調節する必要があるからだ。
 だが、本機は一人乗りである。コパイは存在せず、演算担当者など同乗していない。BALLSや犬/猫士だって当然いない。
 そして更に、演算ユニットもさほど高度なものは使われていないのである。
 つまり、本機はスペック上、あり余る力を全く制御できない欠陥機として表現される事になるのだ。
 だが勿論、本機は欠陥機などではない。ならば、どうやって演算を行っているのか。

 答え。演算を行っていない。蓄積されたデータを使っているだけである。
 戦闘中に行うあらゆる動作を事前に訓練で反復しておき、その都度出力調整をマニュアルで行って最適化するのである。
 最適化したデータを蓄積していき、訓練を重ねる事で性能を生かせる出力配分を機体に覚えさせていく。
 後は、それらのデータを戦闘中に引き出して再現できればそれでいい。
 戦場でいきなり突飛な行動を取ることはできなくなるが、訓練を重ねればそれは突飛な行動ではなくなる。
 訓練しなければそもそもロクに動かせないが、訓練すれば機体はパイロットの手足のごとく馴染む。乗り手を選ぶ事は、決してマイナスだけではない。

 だからそれは、ただ人の努力こそが力になるという、普遍化とは程遠い思想の体現のために備えられたシステム。
 本機が騎士機たる所以の一つである。本機を乗りこなせる者は、操縦訓練の過程で、すべからく一流の騎士となっているだろう。

その未来


 現在、宰相府藩国では、本機の量産が推し進められている。
 重力制御系の再現も限定的ながら進み、性能こそ落ちるが飛行と機体制御ならば全く問題ない領域まではたどり着いた。
 ようやく原型機の性能を再現できるところまで技術が進歩したと取るべきか、進歩してしまったと取るべきかは判断に迷う所ではあるが、これは、I=D開発史における大きな一つの転換点と言えるのかもしれない。
 本機の量産型は前ループの終末の入り口まではたどり着いており、もしここより更に高みを目指して開発が進められていくのならば、現行技術は限りなくTLOに近づいていくからである。
 次がもし存在するのならば、それは当機を越えた、その先にあるものなのだろう。


 動乱続くアイドレス界、そこに再び現れた騎士機は、未来をどのように変えてことになるのだろうか。
 その答えは、今はまだわからない。 


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設定イラスト:黒崎克哉@海法よけ藩国
設定文:雅戌@玄霧藩国
最終更新:2008年08月10日 23:23